8話

「お前、本気で森川と付き合ってるのか・・・?」


「う・・・」
親友に直球で聞かれ、神崎は答えに詰まった。
自分から言いふらす前に周りは勝手に『神崎と森川は恋人同士だ』と思ってくれているし、『交際』をしていることは事実ではあるが、清原が聞きたいのは、そんな表面的なものではないだろう。


(さすがは親友と言ったところか)


わざわざ『本気で』という言葉をつけたのだ。どうやら清原は神崎の心の奥底に潜む『何か』に気付きつつあるらしい。
今の関係を『恋人同士』以外で表すならば、兄弟の延長線みたいなものなのかもしれない。
本来であれば手をつないでキスをして、えっちをして・・・という流れがあるのだろうが、神崎が無理やり巻き込んだ形であるため、さすがにいきなりそこまで行くには良心の呵責というものがあり、神崎も遠慮している部分がある。
その微妙な線引きが清原には不自然に映ったか。



(それなりに好いてくれてるとは思うんだけどな)



実際、嫌われてはいないと思う。
こちらが誘えば時間を割いてくれるし、森川も南とべったりしていた頃に比べれば、神崎のところに来てくれる頻度が増えている。
南の側にいたくないから・・・と理由もなくはないだろうが、森川自身は自分で言っているほど南のことは嫌っていない。
と、いうことは、少なくとも森川が彼自身の意志で神崎と『付き合っている』部分もあるのだろう。

(ま、それはそれで問題だけどな)

付き合う以前は森川がどんなに南と親密にしたところで気にもしていなかったはずなのに、森川の様子がおかしかった時は、けんかしたのか・・・と心配したくらいなのに、今となっては二人の仲が険悪のままでいることを望んでいるほどだ。
だが、お互いが決して嫌いあっているわけではないことくらい、神崎もわかっている。
ボタンの掛け違いでおかしくなってしまっただけで、それを上手く直せばまたもとの親友同士に戻ることはできるだろう。



(その時になったら、俺は笑っていられるのだろうか?)



まだ『親友』で収まればいい。そのくらいなら、神崎だって笑って見守るくらいの度量はある。
だが、もしそれ以上の関係になったら?森川が神崎ではなく、南を選ぶようなことになったら?その時がきたら神崎は大人しく今のポジションを明け渡すことはできるのだろうか?

(うーん・・・その自信はないな)

簡単に別れることができれば、そもそも付き合うことなんかしなかった。
『兄としてでいいから』などと言ったのが始まりであっても、今の神崎は紛れもなく本気だ。

(って、何で俺は悪い方向に考えているんだ?)

南がゲイかバイであれば、その心配はおかしくはないが、南はノンケだ。だからこそ、森川を傷つけたのではないか。
もっといつもどおりに構えていればいい・・・弱気な自分に苦笑いする。
いや、普段通りでいられないのは、それだけ森川が特別な存在になっているからかもしれないが・・・。



「お前、あいつらで遊ぶのも程々にしておけよ・・・」



遊びだと!!普段冷静な神崎にしては珍しく激昂しかけた。
清原のことは大切な親友だと思っていたのに、自分ことを解ってくれる数少ない存在だと思っていたのに、何で自分の気持ちを解ってくれないのだろうか。
だが、怒鳴りかけたところで、神崎はため息をついた。
これが遊びであれば、どれだけよかったのだろうか?
程よく森川をつついて、南を悶々させて、それで自分が楽しむ。
以前であれば、そんな感じで楽しめたのだろう。
だが、今はそれができないレベルにまで来ていることは確かだ。
きっかけはどうであれ、自分は思っている以上に森川のことが大切になっているらしい。
おそらく清原の忠告も、それを把握してのことだろう。考えてみたら本気で思っていたら、彼の言葉はこの程度では済まない。



「遊びであれば・・・良かったんだろうな・・・」



ぽつりと吐いた呟きには、神崎の複雑な感情が込められていた。『あまり思い詰めるなよ』と清原と言ったのが耳に入る余裕などなかった。



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