11話

(俺は南のこと、そして神崎さんのことをどう思っていんだろう)

神崎に考える時間を押し付けられ、森川は自分の気持ちと向きあうことにした。
これは今まで考えないようにしてきた気持ちだった。南に屈辱的なことを言われて、彼を避けていたはずなのに、気がつけば彼のことばかり頭の中にある。南の心配ばかりしている。
多分、南のことは嫌いではないのだろう・・・いや、嫌いになれるはずがないというのが正しいか。
そりゃ、何だかんだで高校からの付き合いで、大学入ってもずっと南の面倒を見てきたわけだ。どうしてあっさり切り捨てられることができようか。
あのとき男同士のことで腹が立ったのも、他ならぬ南に言われたからだ。もし他の友達に言われても、受け流すことができたはずだ。
それだけ南は森川にとって大切な存在なのだ。

そして神崎は自分にとってちょっと越えてしまった部分はあるけれど、お兄さんみたいなものだ。
南の言葉で傷ついた時、側にいて自分の傷を癒そうとしてくれたのが彼だ。もしあの時声をかけられなければ、ずっと独りで燻っていたかもしれない。
だから、神崎が南の代わり・・・ということはあり得ない。どちらも自分にとっては大切な存在になってしまったのだ。
だけど、どちらかを選ばなければいけない。それなら、どちらを選べばいいのか・・・本当は逃げ続けていただけで、結論は分かっている。
そして自分の抱えていた『もやもや』もそれに直結する。
もちろん、答えを出すのが辛くないわけではない。自分のしたことは自分を大切にしてくれた人に対する裏切りなのだから。
だが、あいまいにせずそれを告げなければいけない。それが今自分にできる誠意なのだ。





----------




「神崎さん・・・ごめんなさい・・・。せっかく付き合ってくれたのに、その気持ちを踏みにじることになってしまって・・・。
でも、俺、やっぱりこいつを見捨てることはできないんです。
だって、南は俺がいないと何もできないから、俺がいて支えてやらないと・・・いや、ごめんなさい。俺自身が南の側にいたいんです」

震えながら、それでも森川は今の気持ちを率直に告げる。
これが森川の出した結論だった。
付き合っているのは神崎だと分かっているのに、いつも南のことを心配していた。
嫌いになった存在であるはずなのに、どうしても忘れることが出来なかった。それだけ南が特別なのだ。
確かに神崎も特別ではあるけれども、森川は神崎のことを『考えようとしていた』・・・それを認めてしまった以上、自分を偽ることはできない。
二人のうち一人を選べと言うのなら、ためらいもなく南を選ぶ。
神崎にはいろいろ友人がいるけれど、南のことを分かってやれるのは自分しかない、そんな自負が森川の中にあり、それは決して自信過剰ではないのだ。



「そうか・・・」



神崎は黙り込んだ。何かを考えているようだが、その表情は読み取れない。
だから、森川は不安になる。果たして神崎はそんな森川の我儘を許してくれるのだろうか?

「ふぅ・・・それならそうすればいい。俺のことは気にするな。最初から『兄としてでいいから』と言っただろう?」

しばらくして出された答えは、『わかった』だった。
本人は淡々とした表情で、『森川と付き合ったのはただの気まぐれだから、別に振ろうが何も思っていない』と思わせたかったようだが、声色にところどころ苦渋の決断の様子が表れていて、うまくはいかなかったようだ。
それを見る森川の心は罪悪感で満たされていた。だけど、自分が出来るのは何度も謝ることだけだった・・・。



NEXT



サイトINDEX   サイトTOPページ   Novel