14話
そんなことがあったから、二人の仲も元に戻り、一緒に登校するようにもなった。
恋人と言うには程遠いかもしれないが、ただの友達の時には見られなかった甘い空気が漂うようになってきた。
そしてある日、ばったりと神崎と清原に会ってしまった。
ゼミの関係で会わない・・・ということはあり得ないが、意図しないところで会うと後ろめたさも感じてしまうものだ。



「うーん・・・甘い空気が漂っているなぁ・・・」



一触即発か・・・と思ったが、そのようなことはなく、にやりとしながらからかうのが神崎である。
この間振られた男の態度であるとは思えない。



「あ・・・その・・・この前はごめんなさい・・・」



深く頭を下げて謝るのが森川である。
しかし、南はぶすーっとしている。
それは当然の話だろう。自分を相当悩ませた元凶と一緒にいて嬉しいはずがない。
だが、神崎はそれに気付いたのか、妙に楽しそうだ。

「あぁ、別に気にすることはないさ。
そこの横から入ってきたやつに奪われたことなんかぜーんぜん悔しくないから。
そういえば、初夜は済ませたのか?」

この人はなんてことを口に出すのだろうか。
下ネタは森川も嫌いではないが、一応ここは外なんだから少しは考えて欲しい。
だけど、あまりにもいたずらっ子のような顔で言うので、思わず吹き出してしまった。

「そんなのとっくに済ませてますよぉ・・・。
あれほどやめろっていうのに、全然止めなくて。
優しく動いてくれればいいのにガンガン突いてきましたからねぇ。
というか、あんなんでよく女の子は・・・」

森川は神崎には笑いながら言うものの、南には睨みつける。
それを聞いて神崎もぎろりと睨みつけるので、南は後ずさる。もちろんこれは強姦事件の話である。

「だから・・・あれは悪かったって言ってるだろう!」

「あの時快感が得られればいいって言っていたのはどこの誰だったっけなぁ」

「え?南のやつ、そんなことを言ってたんですか?
ってことは・・・俺はただの右手の代わりだったんだ・・・そんな都合で俺は・・・ぐすん」

傷ついたといってさめざめと嘘泣きをする森川。
そして傷とやらを癒そうと優しく彼を抱きしめる神崎。
その傍らでは南がおろおろとし、清原が呆れている。
だが、清原には彼ら、特に神崎がやっている意味が分かったようだが・・・。

「そうだ・・・あいつはそーゆーやつだ。もうそんなことをしないという保証もない。
だから、あいつはやめて俺にしとけ。俺はお買い得だぞー。こう見えて結構健気で尽くすぞー」

「そうですね。何かそういわれると急に神崎さんの事が・・・」

軽い口調でアピールしているものの、神崎という人間は普段のSっ気のある言動とは裏腹に、本当はものすごく情の深い人間であることは知っている。

「だから、全ては俺が悪いんです。お願いですから結びつかないでください・・・」

世にも情けない顔で懇願する南。以前の『カッコいいけど近寄りがたい』というイメージなど、影も形もありゃしない。
その顔が本当に哀れなので、つい二人は爆笑してしまった。
ここでやっと森川は神崎の意図を理解した。
自分と南の間にある強姦の問題を笑い話にしてしまったのだ。
そして・・・神崎に対して負い目を感じないようにも・・・。

「だけど考えてみたら、俺たち付き合っていたくせに、キスの一つもしなかったんだよな。せめて一回くらいしようじゃないか」

思い出したように神崎は言う。森川はつい赤くなってしまった。
神崎のことは嫌いではなく、むしろ好きだからである。
南がいなければそのまま付き合っていただろうとも思う。
それに、本音を言うと・・・それで神崎の気が済むというのなら、安いものだ。

「そうですね・・・。今しましょ?」

そう言って神崎の腰に手をまわし、ぽーっとした顔で待つ森川。神崎は何も言わずに唇を近づける。
そして、二人の唇が重なろうとした・・・。



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