2話

朋久は洋介のことが好きだ。LOVELIKEかどちらなのかと聞かれれば、間違いなくLOVEと答える・・・そのくらい洋介のことが好きだ。
何で好きなのかと聞かれれば、お人好しなところとか、カッコ可愛いところとか、思わず抱きつきたくなったりしまうところだとか、挙げればキリがないのだが、まぁ、好きなものは好きだから仕方がない。
その好意はひた隠しにはせずにそれなりに伝えまくってはいたのだが、残念ながら洋介には『隣のやさしいお兄さん』としか思われていないようで、ちょっとさびしいものの、そのおかげで幼馴染の関係は維持できていると思うと、ほんの少しだけほっとするところもある。
鈍いのか、それともあえて気づかないふりをしているのか・・・それは朋久にはまったく理解のできぬことだが、ただ一つ断言できるのは、自分の気持ちが報われていないという事実。
現に、今日の映画もキャンセルだ。前回・・・といっても数か月前のことだが、一緒に食事する予定だったのが、やはり本人の都合によりパス。
予定通り行えているのは勉強くらいなものである。




「朋久さん・・・怒ってる・・・?」



恐る恐る少年に聞かれ、朋久は元の世界に戻った。今は家庭教師のバイト中だ。
映画がお流れとなった(別に映画を見ることが楽しみだったわけではない。洋介と一緒に過ごすはずだった時間がなくなったのがショックだった)ことでやる気をなくし、適当な理由をつけて自習させ、朋久は自分の世界に入っていたのだ。
で、その『手抜き』が洋介に伝わってしまったらしい。


「ん?何で?」

「その・・・俺、今日ドタキャンしたから」

「あぁ、自分から誘っておいて人を待たせた挙句、行けなくなったあの件だね」

ちょっとだけトゲを込めてやる。どちらかというと穏やかな性格で、それこそ『優しげなお兄さん』である朋久には珍しいことだ。



「やっぱり・・・怒ってるよね」



洋介も朋久が普段とは違うことに気づいているようで、しゅんとする。
『やっぱり』ということは、洋介は洋介なりに気に病んでいるらしい。


「別に、怒ってるわけじゃないよ」

苦笑しながら洋介の言葉を否定したが、朋久の言葉にウソはない。
怒っているのではなく、拗ねているのだ。
本当に腹だっていたら、怒りを鎮めるためにおそらく口を利かないだろう。
ただ、そんな否定をどう受け取ったのか。洋介の表情が陰りを帯びたものとなった。


「その、ごめんなさい。俺が無理言って朋久さんに時間作ってもらったのに。この埋め合わせは絶対するから」



「絶対・・・ねぇ・・・」



洋介の言葉を反芻する。別に埋め合わせなど、どうでもいい。
洋介自身は自分の非を認めて弁解しないが、言い訳をしないということは、彼には彼のやむに止まれぬ事情があったのだろう。そんな彼を怒るのも酷だ。
ただ、どうも洋介には朋久が不機嫌な理由を分かっていないようだ。ただ『見たい映画が見られなかった』から怒っているとしか思っていないだろう。
だが、映画なんてどうでもいいのだ。
仮に映画でなくたって問題ない。ただ洋介と一緒に何かして時間を過ごしたかった。
勉強以外のことでいろいろ話をしたかった・・・それだけだ。
『また今度行きたい』とでも言ってくれれば、根本的には洋介には甘すぎる朋久はすぐに水に流してしまうのだ。
だから『埋め合わせ』というのは彼のほしかったことばとはちょっと違う。




(まぁ、それを求めるのもどうかと思うけどね)



本当に『一緒に出かけたい』と思っているのであれば、そういう言葉が自然と出てくるはずだから、無理にそう言わせたとしても意味はないのだ。



ねくすと



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