4話

洋介が隠し持っていたのは、朋久にあてた手紙だった。
地獄の微笑みが一気に解け、朋久は硬直する。




「まさか・・・洋介くんが・・・」



朋久宛にラブレターを用意し、だから今日の予定が没になった?
それはなんという幸運だ・・・妄想しかけたが、すぐに元の世界に帰る。
そんなことがあるはずもない。あってたまるか。
もちろん洋介もちゃんと否定する。


「いや、同じクラスの子が、朋久さんに渡してくれって・・・」

あまりにも淡々と説明してくれたので、朋久も落ち込む暇がない。

「それを君は引き受けたってわけだ」

「ん・・・まぁ・・・」

洋介は口ごもる。その子がどこをどうやって朋久のことを知ったのかは知らないが、その件で洋介はドタキャンせざるを得なかったというわけだ。
洋介の弁解するところによると、自分のものではなかったため断ることが出来なかったとのこと。
なお、朋久との予定よりも彼宛のラブレターを受け取ることを優先させたことに気まずさを感じているようで、見つかるまで手紙は渡せなかったらしい。
お人好しもここまで来ると、大問題だ・・・ため息をつく朋久。



「で、僕はどうすればいいのかな・・・?」


こればかりは洋介に聞いても仕方のないことで、仕方なく手紙を開いた。
差出人は見たことも聞いたこともない女性だった。とりあえずは朋久のことが好きだから会ってほしいということはわかったが。


「う〜ん・・・こればかりは俺には何も言えないよ。受け取ったのは俺だけど、宛先は朋久さんだし」

確かにそうだ。この手紙が朋久の手に渡った以上、これは朋久とその女の子との問題になる。これは迂闊だったかもしれない。
黙殺していれば(=ラブレターの件を知らなければ)、自分の問題にはならなかったのに。
ただ、こればかりは洋介から手紙を取り上げてしまった自分に非があるので、何ともしがたいのがつらいところだ。




「ちなみに、洋介くんは僕にどうしてほしい?」



「え?俺?」

「うん。君が僕に渡したんだからその意向も伺わないと」

先ほど洋介が答えられなかったように、これが意味のない質問であることは分かっている。
ただ、少しくらい焼餅やいてほしいな・・・という願望が混ざっていることは言うまでもない。




「まぁ・・・かわいい子だし、会って損はないと思うよ」



そんな場の空気を考えない洋介の答えが朋久の機嫌を損ねてしまったことも、これまた言うまでもないことだった。



ねくすと



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