5話
そんなこんなで朋久はその手紙の主と会うことになった。当然のことながらその辺の段取りは不本意だが洋介にしてもらうことになり、ぶっつけ本番で会うというのが実情だ。
お見合いだって事前に顔写真を見るだろうが、話が急だったため、それすらもない。
(ま、ここで拒否して洋介くんの立場を悪くするのも嫌だしな・・・)
だから何も知らない相手に会うのだ。そうでなければ手紙など破り捨てている。
「あの・・・久喜朋久先輩ですよね?」
ベタにファミレスで待ち合わせをし、若干暗い思考に入っていた朋久だったが、躊躇いがちに少女が声をかけたことで元の世界に戻ってきた。
「そうだけど、そういう君は・・・」
確か三沢留美とかいう少女だ。字面はしっかりとしたものだったが、実物は『ほわわん』とした女の子だ。
わずかにウェーブがかかった髪に、くりっとした瞳。洋介と同い年という割には、若干幼さを感じる表情だ。
「今日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。三沢留美と申します」
ただ、ほわわんとしただけでなく、育ちもしっかりしているらしい。彼女がいい子であることは一目見てわかった。
(さすがにこれじゃ洋介くんも断れないよね・・・)
洋介が困るのも無理はない。彼女には手を差し伸べたくなるような何かがある。
『洋介以外は眼中にない』という朋久でさえそう思うのだから、彼女のクラスの連中は言うまでもないだろう。お人好しの洋介ならなおさら。
「う〜ん・・・気持ちは嬉しいんだけどね・・・」
これはかなり迷うところだ。留美が傷つく姿は見たくなかった。だが、ここで態度をうやむやにしたら、もっと傷つくだろう。
「僕は君とは付き合えないよ」
どんなに留美が可愛くとも、付き合おうとは思わない。だから、彼は自分の意思をはっきりと告げた。
「それは・・・今日会ったばかりだからですか?」
彼女もここまで来るのに相当勇気が要ったのだろう。諦める様子は見せず、食い下がってくる。
「初めて会ったかどうかは関係ないよ」
その言葉は嘘でも何でもない。今日初めて留美のことを知ったが、彼女が魅力的な子であることくらい朋久だって分かっている。
「でも、僕には好きな人がいるから・・・」
だからこそ彼女とは付き合えないのだ。
「もうすでに付き合ってるんですか?」
「それを言われるとつらいんだけど・・・僕の片想いだよ」
ふー・・・ため息をつくと、偶然なのかどうか、留美もため息をつく。
「どんな子だか聞いてもいいですか?」
「僕の幼馴染で・・・かなり鈍い子だよ」
途端、留美が苦笑い。
「おまけに人と約束したかと思えばドタキャンしたり、人にラブレターなどよこしたり。ったく、人の気も知らないで・・・」
思い出したら、どうもムカムカしてきた。
「お人好しなのはいいんだけど、その方向性がね、何でか僕以外の人間に向けられてるんだよね。僕の優先度なんて二の次三の次。
まぁ、そんな子だけど・・・僕にとってはとっても大事な子だから。せっかく時間くれたのに、ごめんね。
今は特に誰かと付き合おうという気持ちはないんだ」
「先輩の好きな人、なんだかわかった気がします」
別に朋久には隠す気などさらさらなかったのだが、留美もちゃんと気づいたようだ。
「だから、本当にごめんね」
無碍に断るにも留美はあまりによい子過ぎた。もし自分が洋介のことを好きでなければ、実際に付き合っていたかもしれない。
ただ、それを言うのは留美に失礼かもしれないので、本心は明かさないでおく。
「謝るのは私のほうです。知らなかったとは言え、先輩に無神経なことをしてしまいました。でも・・・せめて『お友達』くらいはダメですか?」
男女間で友情は成り立つのだろうか?この手の経験に疎く、返事に悩む朋久だったが、『学校での洋介のことを教える』と言われ、断れなくなったのは、ここではどうでもいいことである。
ねくすと
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