6話

それから延々と世間話を続けていた朋久だったが、想定外なことに留美と気が合ってしまった。
このままお付き合い・・・とはいかなかったものの、友達として付き合うには、申し分のない子だ(留美には失礼なことかもしれないが)。しかも、何故か彼の恋路を応援されることに。
『偽装でお付き合いして洋介に焼餅を焼かせる』案も出たが、そうなってしまうとシャレにならない(やきもちどころか、応援される可能性が極めて高い)ので、その件については固辞しておいた。
彼女も洋介の人柄は知っているようで大いに同調し、何でか洋介の悪口で盛り上がることに。しかしながら、洋介はその内幕を知らないので・・・


「朋久さん、三沢さんと付き合うの?」

と、洋介に聞かれてしまう。そういう質問をするということは何かしら気になることがあるようだが、さすがに焼餅を焼くということはないだろう。

「いや、残念だけど」

「そうなんだ・・・いい子なのにもったいない」

どうやら、洋介は二人は付き合うと思い込んでいたらしい。今まで女っ気がなかった朋久が彼女と会うことを了承したことや、なかなか帰ってこなかったことでそう思ったようだが、真相は違う。
あくまでも洋介が仲介したから会ったにすぎない。


「確かにあの子はいい子だけどね。だけど・・・僕には好きな子がいるから」

と、いつもの半分冗談的なノリで言葉を続けたのだが、予想に反し洋介が硬直した。

「え、そうなの・・・?」

いかにも『初めて知った』という感じで、彼は驚きを隠さなかった。やっぱり自分の気持ちは洋介には伝わっていないわけで・・・。


「やれやれ、本当に君って子は。いくらなんでも鈍すぎ。僕の好きな子は・・・」


「ちょ、ちょっと待って!」

最後まで続けようとしたのを遮った。深呼吸をしているのを見ると、聞くのを拒むというよりは心の準備をしているらしい。
これはどういう意味での心の準備なのだろうか?予想がついたのか。それとも、初めて知る朋久の好きな人に興味があるのか。


「いいよ、続けて」

興味津々で話を待つ洋介。どうやら後者だったということ。これで朋久も白状する気が失せた。

「いや、なんだか言う気なくなった」

「えー、なんで?」

何でも何も、自分の好きな子に『知りたくてたまらない』という態度を取られたら・・・ちょっとむなしい。
この複雑な男心を洋介は分かっていないようだが、洋介は朋久の好きな人を知らないので、彼が悪いというわけではない。


「考えてみたら、洋介くんに言っても仕方ないしね」

想いを告げたところでその気持ちが通じるわけでもない。いつものように軽く流されて終わりのような気がする。

「それって・・・どういうこと?」

その言葉に若干眉をひそめる。どうも『洋介には関係ない』と言われているようで気を害したようだ。
普段自分のことなど気にしていないのに、こんな時ばかり機嫌を悪くするのは何だか理不尽である。


「うん、だって、君、僕のこと、興味ないでしょ?」

と、突き放し気味に答えたが、洋介も気づいてしまったようで、『流石にこれはまずかったかな』と思ったのだが。

「つまり・・・朋久さんが好きなのは・・・俺・・・?」

と、詰問するというよりは、確認するように聞いてくる。

「うん、そういうこと。僕は洋介くんのことが好きなんだよね」

言ってしまったものは仕方がない。おとなしく認める朋久。

「何を言い出すのかと思えば・・・俺は断るダシに使われたってことか・・・」

しばらく考え込んでいたものの、勝手に誤解し、勝手に洋介は納得する。どうも本気に思っていないようだ。
一応朋久が洋介を好きなのは事実で、だからこそ少女の告白を断ったわけなのだが・・・考えてみたら幼馴染の男に好きだと言われてすぐに受け入れられるわけがないか。
いつも通りの展開にどうしようかと苦笑しながらもフォローを考える朋久。だが、洋介が続けた言葉は朋久の想像を絶するものだった。




「いいよ、そういうことなら、朋久さん俺と付き合ってみる?」



「へ?」



間抜け面になってしまう朋久。今までいろいろと妄想してきたが、この展開は初めてだ。

「朋久さん、俺が好きなんでしょ?俺は・・・まぁ、そういう趣味はないけど、朋久さんなら有りかとも思うし」

つまり、それはオッケーということらしい。だったらもう少し早く告白しておけばよかった・・・などと都合のよいことを思ってみるが、どうやら向こうも向こうでよく分かっていないようだ。
その事実には少しさびしく思えるものの、拒否されないだけましか・・・ちょっと前向きになった朋久。
『どうするの?』と聞かれイエスと返事したのは言うまでもないことだった。



ねくすと



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