9話

どうも洋介は朋久のことを相当意識しているようだ・・・それに気づき、そして、とんでもないことに気づく。


(俺、朋久さんに結構失礼なことしてる)

今まで自分から遊びの誘いをしておいて、自分の都合でキャンセルをするという・・・かなりえげつないことを繰り返してきた。
愛情表現も今までずっと無視。今までは『朋久さんなら許してくれる』という甘えがあったのだが・・・。


(うん、絶対にまずい)

もし朋久が洋介のことを本気で好きだったとして、好きな相手にそのような仕打ちを繰り返されていたとしたら、朋久は結構傷ついているのではなかろうか?

(あ・・・だから・・・)

この間急に朋久が不機嫌になったことを思い出した。
いつも笑顔を絶やさない彼がそんな顔をするのは珍しいと思っていたが、気分を害さないほうがおかしいだろう。


(でも・・・朋久さんは本当に俺のことが好きなのかな?)

『好きだ』と言ったのは朋久のほうだが、『付き合ってみる?』と言ったのは洋介のほうだ。
それに対して『YES』の返事を出したのだから、少なくとも『付き合ってもいい』くらいは思っているのだろう。
だが、それにしては・・・と、堂々巡りをしていることに気づく。


「その・・・三沢さん、悪いけど日誌お願いできるかな?」

いつもであれば自分で済ます作業なのかもしれないが、今日ばかりは勝手が違った。どんなことよりも優先して朋久に会わなければいけないような気がした。
そうしないと、取り返しのつかないことになる・・・漠然とだが、洋介の心に不安が募る。


「いい報告を期待してるね」

留美には舞台裏がバレバレだったらしい。





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「・・・洋介くんが誘いに乗るのって珍しいね」

朋久との約束を取り付け、急いで待ち合わせ場所に向かい、出会って早々の一撃に、洋介の良心が痛む。
本人は皮肉でも何でもなく純粋に思ったことを言ったのだろうが、その分破壊力がある。
言い換えれば朋久は『洋介はいくら誘っても乗ってこない』と思っているようなもので、少年は『朋久さんの俺に対する認識ってどういう感じなんだろ?』と本気で考え込んでしまった。


「あ・・・その・・・ごめんなさい」

「いいよ、別に気にしてないから」

と、これはいつもの答え。いつもであれば朋久からそう言ってもらうことを期待していたのだが、今日はわずかに違和感が存在した。

(朋久さんにとって、俺との約束はその程度のことなんだ・・・)

洋介が気に病んでいることでも、朋久にとっては些細なことでしかないのだ。
今までは何とも思っていなかったことだが、朋久への気持ちを自覚した途端にその事実は重いものとなる
・・・。



ねくすと



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