第6夜

男のほうといわれて、少年のほうに焦点を当てる。少女に比べインパクトがなかったのでなんとも言えないところだが、線は細く、華奢そうだった。
守ってあげたいというタイプ・・・言うならば、母性本能をくすぐるというやつか。そこまで分析してから、ひとつの事実に気がつく。


「・・・ほぉ」

もし、真鍋の推測が正しければ、そういうことになる。だが、どういえばいいのかが思いつかなかった。
気持ち悪いかと聞かれてもなんとも思わないし、同情かといわれても、同情するほど真鍋は優しくはない。どうしようもなかった。


「驚かないんだね」

「そう言われてもなぁ・・・」

正直、コメントのしようがなかった。そういう類の人がいることは知っていても、真鍋自身、ホモと会うのは全くの初めてだ。答えに戸惑う彼を責めることなど、誰にもできないだろう。

「やっぱり、俺ここで帰るよ。これ以上真鍋さんに迷惑かけるわけにはいかないし。ほんとに今日はごちそうさま」

自分を否定されたと思ったのだろうか、それとも対象にされると思ったと思ったのだろうか・・・寂しそうに来た方向に戻っていく仁科の腕を、慌てて真鍋はつかんだ。
詳しい理由はわからないが、今彼を独りにしてはいけないような気がしたし、自分がそうしたくなかった。
それは彼の性癖を知ってからでも・・・それに気づいてひとつの答えが見つかった。




「性癖がどうであれ、仁科は仁科だろう?」



相手が男であれ女であれ、一人の人間に恋して傷ついているのだ・・・。

「ほんとに・・・真鍋さんって人がいい。ここで俺を独りにしておくのも思いやりだと思うよ?」

「馬鹿言うな。これはただの自己満足だ」

「だから人がいいっていってるんだよ・・・」

明確な拒絶だった。だが、ここでおとなしく引き下がるわけにはいかない。
仁科は心の奥底で誰かに助けを求めているような気がする。ここですがり付こうとする手に気づかなければ、真鍋は一生後悔する・・・そんな予感がした。


「つべこべ言うな。高校生が背伸びして遠慮なんかするな。ガキはガキらしく、大人に甘えていればいいんだ。それに・・・下手に飲まれると、迷惑するのはこっち、それは解るな」

独りの人間にここまで手を差し伸べる人間ではないのに・・・胸に生まれたほんのわずかな変化、戸惑いを隠すため、あえてぶっきらぼうに言ってやる。



「真鍋さん・・・ありがと」



今にも泣きそうな顔で笑みを向ける仁科。そんな仕草にも真鍋は胸の痛みを覚えてしまう。



「ちょっとだけ・・・甘えさせてもらいます」



手をちょっと動かし、真鍋のをぎゅっと握る。赤くなりそうな顔を隠して真鍋はつないだ手を離さぬまま帰宅したのだった。





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「で、どうして好きになったんだ・・・?」

自分で聞いておきながらおかしな質問だと思う。人を好きになることに理由などないのだ。
〜だから好きと言うのは、結局は後付でしかない。本来なら「どこが好き」なのかを聞いたほうがいいのかもしれない。だが、それはそれでニュアンスが違うような気がした。


「どうしてって・・・俺にも。別に男の身体じゃないとだめってわけじゃないし。
まぁ・・・昔から放っておけなかったからね。俺がいてやらないとってな感じで。
佐井・・・あの女と取り合いになって・・・なんだかんだいってこの腐れ縁が続いていったんだけどな・・・だけど、佑・・・男のほうだけど・・・は当然男に興味を持つはずがないから、次第に自分を引っ張ってくれる佐井のやつに惹かれるわけで」


「それは・・・難儀なことだな」

そうとしか言いようがなかった。

「まぁね。どんなに俺が格好良くても、女には絶対勝てませんからねぇ」

「自分で格好いいと言うか、普通・・・」

「・・・つまり俺の自意識過剰ってやつか!」

即入れた真鍋の、この場にそぐわないとしか言いようのない突っ込みに不快感を示すことはなかった。おまけに、それで少し悩んだ様子も見せる。
そんな仁科が可愛く見えて、つい真鍋の口もほころぶ。


「真鍋さんも笑うんだ・・・って、何がおかしいんですか」

「いや・・・別に自意識過剰なんかじゃないよ。本当に仁科は格好いいと思う」

その言葉に嘘も偽りもなかった。別に真鍋は仁科の外見だけに触れたわけではない。
目に見えぬように人を気遣っているところも、友達想いであることも。
一途なまでに人を愛して、その傷は自分だけで抱え込んでしまう。臆病といえば臆病なのかもしれないが・・・その一言で片付けたくはなかった。






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