第8夜

『精神的にやばい』その続きを聞かなくても分かるような気がしたものの、『ほれ』そう言って仁科は真鍋の手をある一点に持っていく。




「なるほど・・・と、いうことは、俺は対象に入るのか?」



「本当はタイプじゃないけどね。俺、どっちかと言うと可愛い子を押し倒したい奴だから・・・」

それなら対象外だな、苦笑する真鍋。あっさりと言われ、ちょっとだけショックを受けたのは、口には出さないでおく。

「だけど・・・真鍋さんになら・・・なんて言うのかな・・・」

「押し倒しても平気というやつか」

押し倒されている自分を想像して、ぞっとする。恋の痛手を背負っている少年が相手とはいえ、下になるのは本意ではない。



「まぁね。だけど・・・その分だと嫌そうだ」

ため息をつき、傷ついた様子を見せる仁科。ホモセクシュアルではない以上「そんなことない」と否定することはできなかった。

「だけど・・・抱きしめるのは平気なようだ。なら、俺がされればいいんだね。真鍋さんも男役ならあまり抵抗はないだろ?」

「まぁ・・・どうだろうな」

そう振られ、暫く考え込む。男同士でいたしたことなどあるわけないが、不思議と仁科が相手であれば抵抗感はなかった。
認識していなかっただけでもともと真鍋にそういう要素があるのか、相手が仁科だからなのか・・・。


「それなら真鍋さんが俺を・・・って言いたいのは山々だけど、それはやめておくよ。ただでさえお世話になってるのに、そこまで甘えるわけにもいかないし。真鍋さんもほんとは男なんかとはしたくないだろ?」

「そ・・・それは・・・」

「言わなくても分かってるよ。真鍋さんは優しいから、俺を心配してくれてる。俺を独りにさせたくないと・・・思ってるんだろ?」

「まぁ・・・優しいかどうかはともかく、お前を独りにしたくはないとは思うな」

やさしいというのは気になるが、他は大体合っているので、認めておく。

「だからって気軽に男同士でできるわけないじゃないか」

確かに・・・真鍋は苦笑する。今の彼にとって男同士というのは大した問題ではないのかもしれないが、仁科にとっては違うのだ。それを失念していた。
だから彼にとっては真鍋の選択が『気軽』に見えるのかもしれない。


「もちろん・・・やろうとすればできないこともないだろうけど・・・そんなことして気持ち悪いって言われたらさすがに俺も傷つくし。自分で言っておいて勝手な話だけどね。
真鍋さんの優しさにつけこんでるのは俺のほうだから」




「そうやってまた自分で完結させるつもりか?」



真鍋の言葉には、多少なりとも刺が込められていた。
別にセックスをするか否かではない。ただ、勝手に一線を引かれていることに腹が立った。
仁科に対する同情があったとしても、それは仁科が相手だからだ。もし他の少年を拾ったところで、ここまで苛立つかといえば、そうはならないと今なら断言できる。
もう少し真鍋を頼ればいいのに、甘えればいいのに。仁科にとって真鍋はただそれだけの存在なのだろうか?


「完結って・・・」

真鍋のきつい口調に少年が戸惑うのがよく分かる。だが、この方がいつもの真鍋に近い。彼は仁科が思うほど『優しい』人ではない。

「全てを独りで抱え込んで、どうしたいのか、お前は。誰にも相談できない話?違うだろ?自分が相談しないだけだ。
勝手に壁作って、人を寄せないで、それで自分は不幸だと思っている・・・悲劇のヒロインになったつもりか?」






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