第20夜

人の交友関係に口を出すこと自体相当なおせっかいである。だから普段高梨は人の色恋には干渉しない。
ただ、真鍋に泣かされた女の存在があることを彼は知っている。


「別にそんな感じは・・・」

「まぁ、お前の思っている冷たいとは違うだろうな。別に人が悪いわけじゃない。まあ・・・いい人でもないけど・・・ただ、あまり興味ないだけだ。
だから、『他人』が困っていても、手を差し伸べるような真似はしない」


これが高校からつるんでいる高梨の評価だった。見た目だけ見れば、真鍋は上玉の部類に入る。
それでもあまり誰かと付き合わないのは、本人にあまりその気がないのと、相手にとって近寄りがたい存在だからだ。側に居ると萎縮してしまうとの事。
真鍋とつるんでいるのは、彼が真鍋の理解者というより・・・そんな真鍋と友達を作りやすい一方で歯に衣着せぬ言葉で敵も作りやすい高梨というあぶれたもの同士ということの方が大きい。


「そんなこと、ないです。真鍋さんは本当に優しいです。
そりゃ、ぱっと見愛想は良くないし、結構言葉に棘はあるし、俺へこむこともあるけど、その場だけのものじゃなくて、真剣に考えてくれてるからだって分かるし・・・大体何の面識もない酔っ払いを世話してくれる人の、何処が優しくないんですか」


そうだな・・・高梨も真鍋をこき下ろすのはやめた。これ以上は無駄だ。
おそらく仁科は真鍋の本質を知っている。確かに真鍋は他人には冷たい。だが、自分のテリトリーにある人に対しては違う。
表面上はやさしいようには見えないが、彼なりには気遣ったりもする。
おそらく仁科は真鍋が認めた数少ない存在なのだろう。かなりうらやましい。


(さて・・・そろそろか)

別に昼休みが終わるからではない。いや、昼休み自体はそろそろ終わりそうなのだが、次の行き先までにはまだ時間がある。そんなことよりも・・・。

「高梨さん・・・真鍋さんのことが好きなんですか?」

その質問が来た。ずっと来るものだと思っていた。だが、仁科はその話は中々しない。

「好きだったら・・・どうする?」

「どうって・・・別に、高梨さんが誰を好きでも・・・」

無関心を装っているものの、かなり混乱している。それだけ衝撃だったのだろう。
最初、自分と真鍋のことを恋人同士だと勘違いしていた。本当に無関心ならそうは思わないだろう。
そこまで考えてから仁科という少年の性格に気づく。


「まぁ、関係ないわな。これは俺と真鍋のことだし。だけど・・・君はアレだな。他人に気を回しすぎ。それで人生どれだけ幸せを逃がしているんだ?」

別に悪い少年ではない。あの真鍋が色々気にするのだ。それは実際に話して高梨もよくわかった。
それなら、もっと幸せになっても良いのではないか。


「そんなの・・・わからないです・・・」

「そうだな。自分の気持ちでも分からないことってあるよな。俺も、実は分からなかったんだ」

「分からなかった?」

「あぁ、あいつのことだ」

その途端、仁科が幾分落ち込む。

「いや、別に今までは全く意識してはいなかったんだけど・・・そりゃ、そうだな、男同士だし。
だけど、君が来てからなぁ、どうも調子が狂って。ったく、喧嘩もしちまったし。あー・・・そうだ、喧嘩しちまったんだ・・・」


真鍋に切れたことを思い出して、頭を抱える高梨。

「喧嘩ですか?」

「そ。原因は君の事。だって、君が来てからどうも真鍋のやつが穏やかになって。
俺、高校のころからダチやってるけど、そんなこと今まで全くなかったから、何か俺ムカムカしちゃってさ〜それでつい喧嘩をしちまってね・・・」


「た、高梨さん・・・」

仁科の視線が高梨からずれ、苦笑いをする。何か見つけたらしい、高梨は気にするつもりはなかった。



「ま、いいか。もしあいつに会ったら、謝っといてくれないかな。柄になくイラついてわるかった・・・と」






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