第22夜

『友達』の言葉に仁科が傷ついたと思った。佑のことを思い出させたかと思った。
だから真鍋は謝罪の言葉を探したが、今は何を言っても言い訳になるような気がした。




「俺は出来れば真鍋さんと一緒に行ければ・・・と」



だが、暗くなったのは別のところにあった様子。真鍋の言葉に対してではなく、真鍋を水族館に誘っても断るだろうと思って落ち込んだのだ。
それで自分が気を悪くするとでも思ったのだろうか。これが他の男だったら気を悪くするだろうが、不思議と仁科が相手なら悪い気はしない。
ただ、本当に不思議なのは・・・。




「お前、俺といて楽しいか?」



言い方はきついが、真鍋がそう思うのも無理はない。同年代ならまだしも、真鍋は仁科よりもかなり年上だ。
しかも、性格的に共通する話題があるとも思えない。
彼なら普通に楽しんで遊べる友達だっているだろう。


「えっと・・・それは・・・」

『ほらみろ』即突っ込みを入れる。自分から話を振っておいて少しショックだったことは言わないでおく。

「楽しいというより・・・真鍋さんがいてくれると安心するというか・・・」

そんな言葉にノックアウトされ、真鍋が断れなかったのはいうまでもないことだった。





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待ち合わせは真鍋の部屋だった。迎えにいこうとしたものの、それは仁科に断られる。
本人曰く『気を遣わせたくない』らしいが、それは仕方ないかもしれない。彼の家に行こうものなら、誰かに見つかる可能性だってある。


「すいません、お待たせしました」

時間一分前になって仁科がやってくる。急いだだけあってか、汗だくだ。

「いや、遅れてはいない。そこまで急ぐことはないだろう」

「あ?間に合いました?よかった。実はさっきまで着るものを探してまして」

本当に遅刻寸前だったらしい。別に遅れたところで怒りやしないのだが、こういうことに関しては律儀そうだ。仁科がそう思うのも仕方がない。


(別に服に迷う必要はないんだけどな・・・)


仁科であれば、ナニを着たって似合う。
今日着ている物だって同年代の少年たちに比べればはるかにシンプルだが、却ってそれが仁科の魅力を引き立てている。
服が仁科を消してしまうようなことがない。育ちのいい少年に見える・・・いや、実際に育ちが良いのだろうが。


「・・・どうかしましたか?」

怪訝そうな顔をする仁科。さすがに仁科を観察していたとはいえない。苦笑いしながらその事実をごまかす。

「いや、なんでもない。忘れ物がなければ、行くぞ」





それで、休日にいい年をした男二人がやってきたところは水族館。子連れ以外は想像通りカップルが多い。
中にはしっかりと魚を観察している人もいるにはいるのだが・・・自分の世界に入っている人もかなり多い。まぁ、楽しみ方は人それぞれ、とやかく言う筋合いはない。
ちなみに仁科はどうなのか・・・しっかりと観察している様子。楽しければそれでいいか。かなり久々にきた水族館で、年甲斐もなく楽しむことにする。


「あ・・・あの魚・・・」

仁科に言われ、目の前を見ると、そこにはド派手な熱帯魚。

「あぁ・・・」


「捌いたらおいしいですかね・・・」






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