第24夜
「そうですね、小さい魚もいるし・・・」
仁科に対して『可愛い』と言ったはずなのだが、本人には全く伝わっていなかった。
そのまま仁科に話を合わせてもよかったのだが、そうしなかったのはちょっとしたいたずら心が芽生えたからか。
「いや、お前が」
「へ?」
「いや、なんでもない」
聞き返されたので、少し赤くなりながら咳払いしてごまかす。いったいこの場でなんてことをしゃべっているのだろうか。彼らしくもない。
だが・・・仁科に聞こえてしまったようだ。真鍋に負けぬほどの赤さとなる。
「そんなこと言われたの・・・初めてです・・・」
それもそうか・・・納得する真鍋。
確かに仁科はあまり「可愛い」というタイプではない。
童顔というわけではなく年相応に見た目も整っているし、背が低いわけではない。
ただ見た目がいいと終わってしまうわけではなく、恋愛感情を抱く対象になることは間違いない・・・と、恋に疎い真鍋ですらこう思う。
同年代の女の子は彼のことを「カッコいい」と表現するだろう。テニスをしたら似合うんじゃないか・・・などと、勝手に思ってしまう。
「それならアレか?カッコいいと・・・」
「真鍋さん・・・・俺で遊ばないでください」
『別に遊んでるわけじゃないが・・・』心の中でだけ反論しておいた。遊んだつもりで言ったわけではないことが、逆に厄介だった。
それがお遊びならどれだけよかっただろう。『冗談』で片付けることが出来るのだから。
「悪かったな」
そんな心のうちを隠して、兄みたく軽く頭をたたいてやる。仁科は恥ずかしがっただけで、拒否する仕草は見せなかった。
「ったく、その顔、やっぱり破壊力が・・・」
『破壊ねぇ・・・』半眼で仁科を見つめる。そこまで自分の見た目が悪いのだろうか。
別に自分がナルシストだとは思わないが、そこまで悪いものではないと自覚している。しかも、相手は自分を悩ます存在だ。『破壊』といわれて嬉しいはずがない。
「いや、素材がいいんだから、ぐらっときちゃいますよ・・・」
仁科の言う『破壊』にはそういう意味があったらしい。もちろん悪く言われるよりはよく言われるほうがいいのだが・・・。
「素材はってことは、中身はだめだってことか?」
「そんなこといってないですけど。ひょっとして真鍋さん、拗ねてます?」
「いや、ただのツッコミ」
中身が壊滅的だということは、彼自身がよく分かってる。仁科は過大評価をしているだろうから、客観的な評価にはならない。
(さすがに男同士でする会話じゃないよな・・・)
まるでこれは恋人たちのデートだ。他のカップルのことを笑えない状況にある。居心地が悪いようでいい・・・そんな変な空気を感じる真鍋。
仁科と一緒にいるだけで自分の心がざわめきだって来る。
これでは自分が仁科に・・・。
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