第26夜
「ま、ま、ま・・・!」
突然キスされ、驚きで二の句が告げない様子の仁科。
だが、そんな彼を無視して続ける真鍋には、少年をからかうような空気はなかった。
「ずっとそうやって生きてたのか?お前独りで・・・」
真鍋の瞳には甘さはひとかけらもなく、相手を射抜いてしまいそうな強い光が宿っていた。
彼が愛している少年は気を遣いながら自分の心をすり減らしてきたのだろう。
自分で抱え込むことしかできなかった想いを胸に、ずっと苦しんで・・・。
「それとき、きすは・・・」
「何、ただ、したかっただけだ・・・」
そんな彼の視線の強さが和らいだ。真鍋の言っていることは嘘でもなんでもない。
仁科が好きだからだとか、独りでいたのが痛々しかったからとか、後付はいろいろできるが・・・結局のところは発作的にしたものなのだ。
「真鍋さんって・・・結構無節操?」
呆れ顔で見てくる仁科。曲がりなりにも真鍋は男。女と遊んだことはあるが、このようにキスをしてあきれられることはなかった。
「無節操でいられるほど、相手がいないんだけどな」
「それ、絶対嘘。真鍋さんなら相手に困るはずがない!」
う〜ん・・・返答に困る真鍋。確かに仁科の言うとおり「相手に困る」訳ではない。ただ、困るほど需要もないというのが真相。
自分を美化しまくるこの少年をどう説得しようか、それを考えると急に仁科が真顔になる。
「そうだね、真鍋さんが付き合う相手に困るはずなんかない。本当だったら、こんな休みの日には・・・」
「いや、ごろごろしてるぞ」
シリアスな空気に引きつりかけた真鍋が珍しくボケるが、仁科には聞こえていない。
「本当に真鍋さんには感謝してる。
赤の他人である俺の面倒を見てくれて、こうやって時間も作ってくれて・・・もし貴方がいなかったら、俺今どうなってたか分からない。
俺も、もう少しがんばるから。佑のこと、過去のことでいられるようにするから・・・真鍋さん、そのときまでは俺のお兄さんでいてください。
他の人のものには・・・ならないでください・・・」
途切れ途切れに紡ぎだされる言葉。その一言一言から、彼の傷が伝わってくる。無理やり前を見ようとしている。
だが、独りで歩くことを恐れている。そんな彼に自分は何をしてあげられるのだろうか・・・。
「悪いが・・・そのお願いには答えるつもりはないな」
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