第28夜
『お前が好きだってことだ』
「はぁ・・・」
つい一日前の出来事を思い出し、仁科はため息をつく。
昨日の出来事であるはずなのに、どうしても先ほどのことに感じてしまう。
真鍋は返答する時間をくれなかった。
勝手に「待ってる」と片付けて・・・結局それからは普段と変わりなかった。
それは、自分が答えることが出来ないからだと知っていてのことだ。
(・・・嬉しいかも・・・)
真鍋のことは好きだ。本人及び彼の友人らしき男は真鍋のことを優しくないと言っているが、それは大嘘だ。本当は真鍋はとても優しい。
(だけど・・・)
真鍋の想いに応えられる自信がない。
確かに彼の気持ちは嬉しいが、今は佑のことで精一杯で、ほかの事は頭には入らない。
それに・・・やっぱり不安もある。今までそんな好意を受けてきたことはなかったから、どうしたらよいのかが解らない。
真鍋の差し伸べてくれる手を取りたいと思う一方で、怖いという気持ちがある。
どうも真鍋は待っていてくれるらしいが・・・もしその手をとったら、今度は捨てられることにおびえなければならない。
「はい・・・」
急に携帯が鳴る。その主は・・・夏休み、頭を冷やすのにはちょうどいいときには決して出たくない相手だった。
「佐井・・・いったい何の用?」
「今から時間取れない?」
「いや、忙しいんだけど」
わざわざ佐井が呼び出すのだ。あまりいい内容だとは思えない。
「あれ、仁科って逃げる気?男の癖に」
「それを言うなら佐井は女の子なんだから・・・」
「あ、それ、セクハラ・・・」
「それはおあいこだろ?で、何処に行けばいいの?」
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佐井に呼び出されたのは、以前真鍋と食事をしたファミレスだった。
ここ自体普段学校帰りに利用する場所で、別に何も不思議はないのだが、以前佐井や佑と遭遇したこともあったため、どうも居心地が悪い。
どうせ佑がらみか・・・苦笑いしながら待っていたが、目の前に現れた人物は、想像できなかった人間だった。
(嵌めやがったな・・・)
何を意図しているのかは分からないが・・おそらく佐井が仕組んだのだろう。
その可能性に気づかなかった仁科は舌打ちをする。佑の隣には佐井はいなかった。そうすると、佑も同じ・・・いや、複雑な手口で呼び出したのかもしれない。
こんなまどろっこしい手を使うのだ。さすがに仁科の名前を使って呼び出しはしないだろう。
「その・・・久しぶり」
「あぁ・・・」
相手にかける言葉が見つからなかった。普段仁科と佑はいろいろと会話をすることも多いが、夏休み前に気まずい別れ方をしてしまったため、会話のきっかけがつかめない。
空気は重くなる一方だった。
「佐井は?」
「・・・分からない」
「・・・そう」
会話もとぎれとぎれになる。こういうときに佐井がいてくれれば、適当に言い争いをして気を紛らわせることも出来るのだが、佑が相手だとそうも行かない。
今までけんかをすること自体なかったものだから、こんなときどうすればいいのかが思いつかないのだ。
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