第31夜
仁科は親友である萱原佑に片想いだった。
自身の抱える想いに耐えられなくなった少年は告白し、そして振られた。そこまでは仁科本人から聞いて知っている。
ただ、つい最近―おそらく連絡が来なくなった日―にも何かがあった。それが、佑の言った『この間仁科に告白されたけど断った』ということだ。
つまり、仁科は二度も拒絶されたことになる。
「どうしたらいい・・・ねぇ・・・」
自然と真鍋の声が低くなる。佑は仁科を傷つけた張本人だ。どうして彼にアドバイスをしてやる必要があるのだろうか。
それに、佑は全然分かっていない。
「なんかおかしくないか?」
「ごめん・・・なさい・・・」
泣きそうになって謝る。普通の感性を持つ人間であれば、その今にも壊れてしまいそうな脆さに罪悪感を覚えるのかもしれないが、真鍋には痛くもかゆくもない。
彼に対し温情をかける必要性を真鍋は微塵も考えていない。
ただ・・・それでも仁科が本気で好きになった少年だ。それを考えるとこれ以上は責めることもできなかった。
「本当に大切なのは、どうこう『したらいい』じゃない。君自身がどう『したい』か・・・それじゃないのか?」
「僕は・・・」
答えに詰まる佑。そんな彼に少しだけ手助けをしてもよいのだろうか?
「ホモが気持ち悪いのなら、突き放してしまえばいい。告白されたから必ずその気持ちに応えなければいけないなんて決まりはないんだ。
周りはどう思うかなんかあまり気にしなくたっていい。君は同性からそういう眼で見られたんだ。そして、それは気持ち悪いものだった。怒る権利はあるだろうが」
完全に言葉を失った佑に、今度は優しく諭してやる。
「でも、本当はそれだけじゃないんだろ?まぁ、あまり心地はよくないようだが、それでも友達でありたいと思ってる・・・そんなところかな」
無言で頷き、彼の気持ちを確認した。
「だったら今の君の気持ちを伝えるべきだと思うけどな」
「僕に・・・それが出来るでしょうか・・・」
佑が後ろ向きになるのも仕方がない。
「ま、それは身勝手な考えだろうな。世の中そんなにうまくいくわけがない。
『手ひどく振ったけど自分のお願いには応えてほしい』というのは、相手からみるとあまりにも虫のよすぎることだろ。俺だったら土下座されても断る。
だから、出来ないのならしなくて構わないぞ。別に俺がそれで困るわけではないから」
と、あっさり。ひょっとしたら泣いてしまうかな・・・とは思ったが、佑は真鍋が思っていたほど馬鹿な少年ではなかったようだ。
「その、聞いていいですか?真鍋さんは仁科君のこと・・・」
別に他意があったわけではないのだが、そんな一言でも気づいてしまったようだ。
その理由は真鍋の表情が険しくなかったからなのか。
もっとも、高校生と社会人が知り合っているという時点でただの知人ではないということなのだが。
しかも、性癖という簡単に他人に話せないことを知っているのなら尚更。
「ま、そういうことだ。俺はあいつのことが好きだ。だから、個人的に言わせてもらうと君らが仲悪いままでいてくれたほうが助かるんだけどな。
そうすれば自然と俺しか頼るやつがいなくなる・・・ま、それはそれで不幸かもしれないが」
「その・・・ありがとうございます・・・」
「別にお礼言われることはしてないぞ」
厳密には電車代を貸したため、お礼は言われてもしかるべきだが。だが、佑がここで言ったのはそのお礼でないことは明白である。
「そんなことないです。僕、もし真鍋さんに会わなかったらずっと仁科君に謝れなかったかもしれない」
「いや、別に謝らなくてもいいんだぞ?というか・・・まだ謝っていないだろうが」
そんな軽口に軽く笑顔を見せる佑。
「絶対僕は仁科君に仲直りしてみせますから。で・・・その・・・僕が言うのも変ですけど、仁科君のこと、お願いします」
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