第37夜

真鍋は仁科と出会い、愛することによって自分自身が大きく変わったことを改めて自覚する。
相手からコクられることは決してないではないが、こんなに真剣に自分の気持ちを伝えることなど、今までなかったのだ。


「俺にだって今までいろいろな出会いはなかったわけではない。
ま、男とそういった類の出会いはなかったが・・・どちらにしろ俺自身を変えたのは、お前しかいないんだ。
仁科にとって俺は周りの人と同じ存在なのかもしれないが、俺にとって仁科はただひとりの存在だ・・・ちょっと重いかもしれないが、それは分かってほしい」


「ったく・・・仁科さんってば・・・何でその顔で言ってくれますかね」

ほんのりと顔を赤くして少年はつぶやいた。以前に『破壊力がある』と仁科が評した真鍋の容姿。
今まで別に気にしていなかったが、それで仁科が陥落してくれるのであれば非常に助かる。この美貌(?)に感謝したい。


「何でも何も、この顔は生まれつきだ」

さらに顔を近付いて言ってやる。仁科の顔面から冷や汗が出ているのは気のせいではないだろう。

「だからその顔はきついですよ・・・まったく。真鍋さんは俺を逃がしてくれる気はないんですね。参ったなぁ・・・」

仁科は苦笑いをしているが、それでも目が笑っていないことに真鍋は気づく。
それは困っているというよりは、次に発するべき言葉を真剣に考えているように見えた。だから真鍋は黙って仁科の言葉を待った。


「俺、真鍋さんのことは好きです。一番最初・・・水族館で俺のことを好きだと言ってくれたとき、本当は嬉しかったし、実はドキドキしてました。
でも、正直に言いますね。まだ俺は真鍋さんのことをそういう意味で好きなのかどうか、分からないんです。
今までずっと佑のことだけ見てたから、急に言われても・・・いや、急じゃないんですよね。真鍋さんは充分俺に考える時間をくれたんですから。
でも、今はまだごちゃごちゃで、俺自身心の整理がついていない状態で、どう返事したらわからないんです」


さて、どう返したらいいものか・・・ひたすら頭を回転させて出した結論は・・・やはり仁科の続きを待とう。

「でも、さっき真鍋さんが俺から離れていったとき、凄く哀しかった。何か大切なモノを失ったような気持ちになったんです。
その・・・何て言えばいいんですかね。取り返しのつかないことをしたような気がして、後悔した。
俺がこうやっていられるのも真鍋さんのおかげなのに、なんでバカなことをしたんだろうって。
すごくわがままなことを言っていることは分かってるんですけど、俺としては、もう少しだけ、もうちょっとだけ真鍋さんにはそばにいてほしいんです」




「それは・・・兄の代わり・・・ということか?」



以前に『俺のお兄さんでいてください』といわれたのを思い出した。
仁科が独り立ちするには、まだ時間がかかりそうだから・・・そういうことだからなのか。勝手に結論付けようとしたが、それを否定したのは仁科だった。


「そういうことじゃないと思います。そりゃ、前にそういったことはありますけど。でも、たぶんその時とは違います。
あのときは佑のことしか頭に入ってませんでしたけど、今度はもっと違った意味で真鍋さんのことを見ていきたい・・・これが今の俺の気持ちです。
とりあえず今はこれしか言えないですけど・・・その・・・こんな俺でも真鍋さんは付き合ってくれるんですか?」


その顔に映る表情は、不安だろうか?それとも、真鍋を失うことに対する恐怖だろうか?瞳に映るその揺れを真鍋は見逃さない。

「残念だが・・・お前のその『わがまま』とやらにつきあうほど俺は優しくはないけどな」

その厳しい一言に仁科が消沈する。

「・・・当然ですよね。ごめんなさい、俺がバカでした。そんな都合のよすぎる話、真鍋さんが聞いてくれるはずがない」

そんな今すぐにでも泣きそうな顔をする仁科に、最近ちょこっとだけ生まれた真鍋の良心が刺激されないはずがない。
『さすがに言い方を間違えたか』自分の口下手さを恨んだ真鍋は訂正することにする。


「いや・・・『ちょっとだけ』というのが気に入らなくてだな。俺は使い捨てカイロか?」


十分温まったら、ポイ。


「そういうわけじゃないです。じゃぁ、聞きますけど、真鍋さんはずっと俺のそばにいてくれるんですか?
俺が真鍋さんのことを愛せる・・・そんな保証はないんですよ?ひょっとしたら俺はずっと佑のことが好きかも知れない。
それに、真鍋さんが俺と一緒にいて得するのって俺だけじゃないですか」






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