真夏の夜の夢

「着いたようだな、真琴」

「ほんとですね・・・。人がいっぱいいる」

「そりゃ、祭りだからな。人がいっぱいいるのは仕方ない・・・」

そう言って越谷義之は苦笑する。
彼とその恋人である後藤真琴は今夏祭りのために近くの川原に来ている。
人が多いので、そういうのが苦手な真琴は嫌がるかと思ったけれど、案外すんなりと行きたいと言った。
真琴に言わせると、越谷と一緒であればどこにだって行きたいそうである・・・。


「それにしても・・・真琴の浴衣姿、なかなか可愛いな。俺はそんな恋人を持って幸せだよ・・・」

感慨深く―人によっては年寄りくさいと言うのかもしれないが―越谷は言う。
彼は人当たりは良いものの、学生時代から多忙であって、学生時代にありがちな性行為への興味はおろか、恋愛そのものに興味が無かった。


しかし、心に余裕が出来たのか、運命のいたずらかは不明だが、やっと現役を退いた越谷の雇い主がきっかけで知り合い、恋愛には時間は関係ないとの言葉どおり、すぐに恋人同士となってしまった。
とにかく、真琴という存在は本当に特別なのである。越谷が特別にべったりと甘やかしたい存在といえば、真琴以外にはない。


「そんな恥ずかしいことは言わないでくださいよ〜。僕を困らせて楽しいんですか?」

真琴が真っ赤になって反抗する。
真琴はかなり病弱な少年だった。
今はそれなりに外も出歩けるようになったが、かつては学校を休むことも日常茶飯事だったし、高校にいたっては出席日数が満たせない可能性がこれほどかというほど高かったので、行っていない。
だから、友達はいても、本当に心を許せる存在はなく、越谷が初めての人だった。
そのため、普段は超級の人見知りをする真琴も、越谷にはなついている。


「でも、越谷さんのも素敵です!」

そう言って越谷に腕を絡める。越谷に拒否する様子は無い。

むしろ嬉しそうである。

驚く周囲にかまわず、彼らはマイペースで屋台を物色しに行く。



結局のところ、彼らは俗に言う『馬鹿ップル』なのであった。






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