そういうことで数々の店を見ていると、定番である食物が色々と売っている。
越谷さんは小腹がすいてきたので、何かを食べようかと思ってみる。


「たこ焼き食うか?」

真琴は興味津々で屋台を覗いてみる。しかし、あまり買いたそうには見えない。

「高いですよ!八つで500円ですよ?スーパーなら10個入り298円で・・・」



その場の雰囲気にそぐわぬ、なんとも家庭的な答えが帰ってきた。



真琴は常に家に居、勉強の傍ら家事手伝いをしているため、体調がよければ買い物をすることが多く(ただし、彼の祖父代わりの巌のお付き、もしくは越谷同伴が条件だが)、主婦的な金銭感覚が身についてしまったようである。越谷さんはあきれるしかない。


「真琴・・・曲がりなりにも後藤グループの一員なんだから、『ここでは』そういうアットホ−ムな話はしないでくれ・・・」





後藤グループといえば、日本有数の大企業グループで、優秀な企業が多い。
そのためか、真琴の発言にはギャップを覚えてしまう。
まぁ、お金を粗末にしないということはよろしいことであり、それはわずかであってもプロの商売人の血を引いている証拠ではあるのだが、こういう場所でそれを発揮されても困るのである。
こういうお祭りでは湯水のごとく金を使うに限る。


「僕ですか?ま、血縁的にはそうですけど、立場的にはまったく関係ないですよ?だって僕は、越谷さんの嫁になるんですから」

そう言って越谷の頬にキスをする。本来恋人にされればうれしいのだが、越谷は怯える。

「こんなの・・・俺の真琴じゃない」

誰にも聞こえない声で言う。
問題発言である。


だが、越谷の言うことももっともなのである。


真琴はそういうことが苦手だったはずなのである。
しかし、いつのまにかスキンシップが増えてきている。



いったい誰のせいだ。



そう思ったところで一人の女を思い出す。あいつか・・・。
それは越谷の親・・・いや、悪友である某女。彼女の性格が移ったのか。だけど、それは思い過ごしだった。


「う〜ん・・・やっぱり僕にはそういうことは向いてないですね」

「だったらどうしてそんなことをする・・・」

「だって、越谷さんは陽子さんみたいな人が好きなんでしょ?」

陽子とは夏樹陽子のことだ。凶悪なスキンシップをすることで、越谷の会社では有名である。
しかし、セクハラ発言をされても楽しんでいられるようなさっぱりとしていて明るい性格のため、社員には人気がある。真琴は社員ではないけれど、越谷との個人的付き合いが多い陽子とは会うこともよくあったのだ。
どうやら仕事のためでもしょっちゅう会っていることを真琴は根に持っているらしい。真琴と陽子もそれなりに仲がいいため、自分のことを棚に上げている部分もないではないが。


「いや・・・そういわれてもな。あの女のどこがいいのやら・・・。俺は真琴が一番だからな。それに、ありのままの真琴が俺は好きだよ・・・無理に飾らなくていい」

さすがに照れることをいったという自覚はあるので、越谷はそっぽを向いてしまった。
真琴はとても嬉しかったらしく、抱きついてくる。こういったスキンシップは彼もよくやる。





なお、真琴は正面から抱きついてきたため、越谷の視線の先には自然と胸元に移る事になる。そこからちらりと見える、扁平ではあるが、透き通った肌に見とれ、俺はエロオヤジか!と独りで悶絶したのは、秘密の話である。恋人同士ではあるが、まずは兄としての地位を確立しようと、越谷は常日頃涙ぐましい努力をして、陽子に笑われていることもまた、秘密の話である。








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