Memory〜Page Three-5

家族が寝静まった夜遅く、僕は窓側に寝そべって桜を見ていた。この時期は本当に特別な季節だ。卒業、入学、進学と、節目の季節である。麻生の家にも節目のときが来たってことか・・・。本当、みんな幸せそうに寝ているよ。後ろから寝息が聞こえてくる。

「博美さん・・・眠れないの?」

どうやら僕は物音を立ててしまったらしい。布団から顔を出して瑞樹がこちらのほうをのぞいている。そんな姿も小動物のようでかわいい。

「色々と考え事をしてね」

瑞樹のこと、達樹先輩のこと、そしてその他もろもろ、今日は本当にいろいろなことを考えた。いつもの僕らしくない。

「博美さん、本当にごめんね。本当は僕と二人っきりで行きたかったんでしょ?だからせめて、二人でどこか出よ。ま、どこもやってないけどさ」





「ははは、瑞樹ちゃんには気を遣わせてしまったみたいね」

どうやら僕は相当寂しそうな顔をしていたらしい。瑞樹と出かけられたことを嬉しくも申し訳なくも思う。

「父さんが心配してた。今日の博美さんは上の空だって・・・。何かいやなことでもあったの?」

達樹先輩って人は、どうして妙なところに限って鋭いのかな。いや、別にいやなことは無いんだけど、どうやら僕との会話の中で何か感じたことがあったらしい。あの人が純粋に鈍感だったら嫌いになれたんだけどね・・・。そういうところがあるからずるずると関係が続いているのだ。

「いや、いろいろと昔のことを思い出してね。君とのこと、先輩のこと・・・」

「博美さんの知る父さんってどんな人だった・・・?」

蝶のようにひらひらと舞い降りた花びらが、瑞樹のさらさらとした髪に一枚ついた。

「そうだね。本当に女癖の悪い人だった。来るものは拒まないからね。本当にあの人はモテるんだよ。本人曰く、愛情に飢えていたとのことだけど」

ははは、と瑞樹が引きつっている。まぁ、いくらなんでも実の父親のことを悪く言われるのは嬉しくないよね。だから僕も一応はフォローしておく。

「でも、あぁ見えてバカなくらいお人よしな面もあってね。あの三兄弟の血がつながらないってことは知ってるよね。みんな押し付けられたと思っているけど、あの人、血がつながっていないことを知らない振りをして引き取ったんだよ」

「どうして・・・?」

「あの年で出来た子なら、先輩も小さいころからかなり絶倫ってことになるからね。それでも、『今引き取らなかったら、この子は一人になってしまう』それで3人も。俺の子だって紹介された僕の気持ちなんか考えなかったんだよ。

まぁ、その『優しさ』が結構ムカつくんだけど、君にとってはいいお父さんだから心配しなくていいよ。律子さん以来女は作っていないらしいし」

それは本当の話。律子さんと別れてから彼はまっすぐに家に帰るようになった。去るものは拒んでいなかったわけではなく、本当に彼女を愛していたらしい。律子さんに逃げられた後の数日間はショックのあまり食事ものどを通ってなかった。結局追いかけるようなことはしなかったけど、それはきっと先輩にも臆病な面があったからだと思う。たぶん律子さんのことを本気で愛したからこそ、怖くて追いかけることが出来なかったのかもしれない。恐らく先輩にとって律子さんが唯一の相手だろう。

「博美さん・・・今幸せ?」

「そうね。あのバカ先輩がいて、3人の息子がいてくれるからね。後は瑞樹ちゃんがあたしのものになってくれれば、言うことはないわね」

瑞樹がしらけているのが暗いはずなのによく分かる。多分、また何を言っているんだと思っているんだよね。

「博美さんが僕にこうやって話しかけたりするのは、母さんと父さんの子供だからなんでしょ!別に僕がどんなやつだか興味も無いくせに!」

瑞樹は走っていった。ってなにを怒ってるの?この年の子供は思春期だから結構反発しやすいのよね。あたしも言葉を選ばなくちゃって!反抗期なの?瑞樹ちゃん。あぁ、あたしは悲しいわって言っている場合じゃない。追いかけないと。瑞樹は大きな勘違いをしている。



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