Dangerous Lilies

さて、どうしたものか・・・珍しくまじめに考え込む俺は緋村皐月。
どうしたもこうしたも、先月恋人の水谷樹の奴が巨大な爆弾を落としていったからに他ならない。
それは・・・バレンタインという、身も蓋もない言い方をすると『お菓子メーカーの策略』としか言いようのないイベント。
別にそんなものがなくても俺たちは深く深く愛し合っているはずなのに・・・。


付き合ってみるとよくわかるが、水谷樹というのは実に変な男だ。
スマートな肢体、切れ長の瞳に黒髪が似合う甘ったるいマスク。天は二物も三物も与えるとはよくいったもので、まさに『王子様』だ。
乙女の誰もが彼に抱きしめられたいと思う。

ただ・・・彼自身が乙女なのだ。もう、何といいますか・・・救いようのないほど。
ファンシーなものが好きで、かわいい猫が大好きで、将来はかわいい女の子と結婚して、一男一女をもうけることを夢見る・・・そんな感じだ。
じゃぁ、何で俺と付き合っているんだ?ということに関しては触れないでほしい。
実は俺も『その時』が来ることに怯えていないわけではない。もし、水谷の口から別れの言葉がでたら?たぶん俺は泣く・・・実に俺は健気だ。そうして奴の良心を刺激しまくってやる。
でも、そんなことをいちいち気にしても仕方がないのだ。それはその時に考えればいい。解決しなければならない問題は身近にあるわけで。

で、そんな彼にとってはバレンタインというのはとんでもなく重要なイベントだったわけだ。愛の言葉など日常茶飯事囁いているくせに。
水谷はちゃんとチョコをくれたのに、俺があいつにチョコを渡さなかったおかげで、乙女な水谷は腹の底が煮えくりかえり、心の中では般若となっていたはず。
そんな彼をなだめるためにも俺は三倍返しをする羽目になってしまったのだ。さて、どうするべきか・・・。




で、んなことを考えていたら、1カ月がたってしまったわけだ。ご都合主義とは便利なものである。
もちろん、俺だって何も考えていなかったわけではない。ちゃんと、策はある。水谷を骨抜きにするためのな。


「おーい、緋村・・・俺一人待たせて何してるんだよ」

忘れるところだった。今日は彼を部屋に連れ込んだんだった。『暇だから家に寄ってけ』そのくらいのノリで。
で、茶すらも出さずに恋人を待たせていたんだ。それはよくないことだが、今回は仕方あるまい。


「悪い悪い。こないだのお返しをするから、ちょっと待ってろ」

と、もう少し待たせることにする。別に焦らしているわけではなく(俺自身は相手を焦らさせるのは好きだけど)、現実的に準備が必要だからなのだが・・・ま、水谷は気の短い男ではないから、それで機嫌を損ねるわけではないことは知っている。

「お待たせ」

かれこれ10分くらい待たせ、俺は入室。で、水谷は凍りつく。

「な、何なんだ・・・その服装は?」

「見て分からないか?ナース服だ」

そう、誰がどう見ても俺が着てるのは看護婦さまが着ているアレ。もちろん色は清潔感のあるちょっと青味がかかった白ではない。
薄ピンクの、言ってしまえばキャバクラのコスプレデーなどでご愛用されがちなアレだ。
勿論ミニスカでヒップを強調する仕様となっている。


「いや、そんなの見れば分かる。なぜ、ナースなんだ?」

あぁ、そういうことね。もちろん、俺だっていろいろ考えたさ。セーラー服もありだったが、さすがにそれは人道的にまずいだろう。
メイド服はあのヒラヒラが俺には似合わない。で、必然的にこのコスになったってわけだ。


「だから・・・何故女装?」

いや、別に俺はコスプレをしているだけであって、女装しているわけではないぞ?勘違いをしてもらっては困る。

「どうせホワイトデーのプレゼントだろうが、俺としては女装よりも男装で・・・」



男がやっても男装にはならんだろうが。



「ひどっ。俺、折角努力したのに・・・褒めてくれないんだ・・・」

評価があまりよくないので、ちょっとだけ泣きそうな顔をしてみる。この顔に水谷がぐらつくことは知っている。

「ほら、見ろよ。せっかく足もつるつるにしたのに。ぱんつだって女ものだし・・・」

ミニスカなので『絶対領域』というわけではないが、ミニスカと真っ白のぱんつの関係はまさに黄金比。
中身が見えるか見えないかというスレスレラインは水谷にとってはツボなはず。


「お、おい!そのぱんつ、どこで手に入れたんだ。そのコスだって・・・」

あぁ、これネット通販だから。最近はお店に出向かなくても手に入るので便利だ。
もちろん名前は女に・・・といいたいところだが、俺の名前ですぐに女だとは分からんだろうから、俺の名前で注文した。この女っぽい名前に感謝だ。






「だって・・・俺、お前に食べてほしかったから」





俺を。水谷に。





「な、な・・・」





ぷしゅー!嫌な音を立てて水谷がぶっ倒れた。

「おや、水谷くん・・・鼻から血を吹いてますね。優しいオネーサンが看護してあげますよ」

倒れた水谷に跨り、俺は血を拭いてやる。いいな、この位置。胸がないのであの谷間ができないのがちょっと残念だけど。

「お、おま・・・」

顔の真っ赤な水谷くん・・・あぁ、可愛い。悶絶死しそうな俺。水谷をたらしこむつもりが、俺の方が先に頭がいかれてしまったようだ。
ミイラ取りがミイラになるとは、このことを言うのだろう。


「も、だめ。俺も限界。水谷ぃ、早く・・・俺を食べて・・・」

組み敷かれている水谷に口づけてやる。

「・・・俺は女装男にやられなければいけないのか?」

なぬ?せっかく盛っているのに、それを冷めさせる水谷のボケ発言。

「だからこれはコスプレというか、イメプレというやつでな」

「じゃなくてだな・・・食べるということは・・・」

あぁ、そういうことか。俺は納得した。食べるというのは当然口でする行為である。
セックスの場合、当然上のお口も使うが、本番で使うのは下のお口になるわけで、そうなると、食べるということは、そういうことだ。日本語は難しい。
一般的に性的な意味での食べるは挿入すると同じ意味で、俺もそういう意味で言ったはずだが。とはいえ、水谷のそんな期待(?)に応えるのは俺の義務。


「水谷さぁん、注射しますよ〜」

「え、マジで?」

「あ、俺のこれ、食いたくないんだ」

まぁ、『看護婦姿の男に食われるというのも倒錯的で好きだ』という奴もいるだろうが、水谷は好みじゃないだろうな。
仕方ない・・・今日はお返しの日だ。俺の方が譲歩することにしよう。


「いや、そういうわけでは・・・」

「やれやれ。お前がそうなら仕方ない。俺自身がプレゼントだ。だから、お前の好きにしていいぞ」

この一言を言いたいがために大がかりな仕掛けをする俺は、かなり健気な男だろう。
ちなみに、別に俺は上だの下だの、そんな関係にこだわりはない。好きな奴と繋がることができるのであれば、どっちだっていい。
だから、水谷が俺を抱きたいなら喜んで抱かれるだろうし、俺に抱いてほしいというのであれば、そのようにする。
とにかく、俺は所在なさげの水谷の手を俺の尻に持っていく。実はこの指も犯罪なんだよな。そこら辺の女よりも綺麗だぞ。


「ほら、お前の好きな俺の尻だ。だからナースにしてやったんだぞ?その方がお前も触りやすいだろうし」

「あぁ、本当だな。意外とこの服スカートの中から手を入れやすい。実に機能的にできてるんだな」

『だろ?』俺は水谷に尻をまさぐらせてやる。彼の手は好きだ。触られていて気持ちがいい。あ、いいことを思いついた。

「俺達さ、いつも何らかの形で上下の談義をしているけど、考えてみたら同時にヤられるというのもありなんだよな」

「どういうことだ?」

水谷の手はそのまま彼のしたい放題にさせてやり、俺は彼の尻、そしてその奥・・・おそらくは俺にしか触れることのできない部分に手を添える。
つまりは、お互い尻を触っているという、傍から見るとちょっと怪しい構図だ。


「ふふ・・・こうやって穴攻めあうのも悪くはないんじゃないか?」

簡単に言うと、お互いに穴に指を入れあうということだ。ナニの触り合いがあるくらいだ。こういうのがあっても・・・ふふ、ぞくぞくする。
もちろん18禁に触れるから細かい描写はナシだ。一応俺たちは頭の中身以外は健全な高校生。


「あ、なるほど。そんだったらお互いキモチよくていいかもしれないな?」

水谷も納得する。彼自身は比較的オーソドックスさを好むが、下ネタに関しては結構好みが一致する。まさに愛。

「だろ?それに、レズっぽくて何か萌える」

「あぁ・・・いいな、それ。最高のお返しだ」

やる気(やられる気?)満々ということは・・・水谷も満足してくれたようだ。
ナースに喜んでくれたのか、怪しげなプレイに賛同したのか・・・詳細は不明だが、この際どうでもいい。

俺と水谷が楽しめれば、それでいいのだ。

我が道を行きすぎて暴走するのが俺たちのお茶目なところなのだ。
考えてみたら、バレンタインのお返しにしては三倍どころか五倍返し位になっているかもしれないが、俺も楽しいからそれで良しとしよう。




ちなみに、その後本当にレズっぽいプレイをしたかどうかは・・・秘密の話。



じ・えんど♪



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