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「世の中は・・・バレンタインか・・・」


妙にテンションの高いクラスメートに、岬はため息をつく。
あげるほうは誰にあげたのかで盛り上がり(それが本当に本命であれば、黙っているのかもしれないが)、もらうほうは誰がどれだけもらっているか競っているらしい。
そのイベントには性別が関係ないのが恐ろしい。
柚月に比べれば少し劣るものの、それなりに高い身長、目鼻立ちも整っているため、可愛い系というよりは「カッコ可愛い系」に属する彼ももらえる対象になるのだが、そんなことは全く気にしていない。興味などなかった。




(先輩は・・・受け取ってくれるかな)



今までチョコなど作ったことがない(まぁ、一般男子がバレンタインのときに作ることのほうが少ないだろうが)ため、ちょっと不安が残る。
柚月が受け取らないことなど傍から見ればありえないことは一目瞭然なのだが、当事者は不安に思ってしまうものである。
バレンタインはわくわくするだけのイベントではないのだ。どきどきだってするし、冷や汗だってかく。


「お、瀬古・・・お前、チョコ、もらった?もらったよな?」

そんな彼の不安など無視して声をかけてくるのが、悪友である間宮。彼の片手にはチョコ。
そのはしゃぎようからすると、あげるからではなく、もらったかららしい。こっそりせずに堂々と喜んでいるのだから、あげた相手は不明なのかもしれない。
だが、彼にあげる物好きもいるのか・・・変なところで感心する岬。




「瀬古くんがもらわないわけないでしょう」



となりでは真雪が苦笑している。いつの間にか真雪もそばにいたらしい。気づかなかった自分に苦笑する。
どうやら間宮とバレンタイン話で盛り上がっていたようだ。入学のころは人と打ち解けようと思っていなかったようだが、時は人を変えるものである。




「受け取るかどうかは別だろうけど・・・ね」



真雪の言うとおりだった。別に岬はチョコをもらうつもりはない。
何人かくれる人はいたものの、それは丁重に断っておいた。好きな人からもらえればいい。
だがその好きな人、柚月が作ってくれるかどうか・・・。
せめて義理チョコでも、チョコでなくても何か代わりになるものでもあればいいのだが、まぁ、そこは岬もあまり期待はしていない。くれなくてもいいのだ。
今まで自分がもらってきた分、柚月に返してあげよう・・・その気持ちで一杯だった。


「おや、こんなところにいたのか」

そんな彼も、耳に届いた言葉によって現実に戻る。その声の主は、岬の大切な存在である柚月だった。
確か今日は自由登校で休みのはずだったが・・・疑問に思う岬。ただバレンタインだからということで来るはずはあるまい。


「先輩こそ、何故ここに?」

「生徒がここに来ちゃ悪いか?」

苦笑いしながら答える柚月に、慌てて岬は弁解する。彼の訪れに焦った自分を悟られたくはなかった。

「あー、そうじゃなくてですね、今日は休みのはずではなかったんですか?」

「あぁ、もちろん今日は休みだ。好き好んでくるわけじゃない。ただ、借りてた本があったから。それより・・・」

岬のそばにいるクラスメートたちに、さわやかな笑顔を見せる柚月。さわやか込なんて・・・営業用にしてはかなりグレードが高いような気がするのは気のせいだろうか?
ともかくそんな彼のスマイルにとりこにされてしまう人たち。




「いつもいろいろお世話になってるね」



それによって周りは真っ赤になるが、主語がない・・・その言葉と笑顔の意味を知った岬と真雪だけは真っ青になった。
まわりは真雪のことに関するお礼だと勘違いしたようだが、真相は全く違う。
いつも岬のそばにいることに対する焼餅なのだ。


「せ、先輩、今忙しいですか?」

慌てて打つ手を考える。

「別に。用は済んだから」

「それじゃ、少し時間取れませんか?」


即オッケーをする柚月。こちらに寄ってきたのだから、そこまで忙しいわけではないのだろう。
彼の策略にはまっているような気がしないでもないが、自分の胃を守るにはこうするしか手段はなかったのだ。



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