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これから先の波乱を考え、何とか柚月を外に連れ出した岬。クラスメートにはからかわれたものの、そんなことは気にしてはいられなかった。
そちらよりも、やきもちを焼いた柚月のほうが対応に困るものだった。
もちろん、何も思わないよりは、妬いてくれたほうが嬉しいのだが、時と場所と場合を選んで欲しいものだ。
「ったく・・・大人気ないことでやきもち焼かないでください」
「別に俺は軽く礼を言っただけだが?」
あっさりと流してしまう柚月。当たり前のように答えたが・・・確かにそうなのだ。柚月はクラスメートにお礼を言った。紛れもない事実だ。
別におかしいわけではない。だが、恋人だからわかってしまうことだってある。
「それにしては笑顔の度合いが過ぎるんですよ。普段の先輩ならそこまで振るわないでしょう?すこしだけ、イメージを損なわない程度に・・・って感じで」
岬の指摘に柚月がうなる。返す言葉が見つからなかったようだ。それをいいことに岬は続ける。
この学校で生徒会役員が束になっても太刀打ちの出来ない柚月を黙らせることが出来るのは、岬を置いて他にいない。
「大体、わざわざ礼を言うためだけに1年のところには来ないでしょう・・・先輩だって自分が目立つことくらい分かっているでしょう?」
べつに、すれ違ったときの言葉であれば、岬とて何も思わなかっただろう。
だが、わざわざ休みの日に登校して(それは彼なりに用事があったとの事ではあるが)、こちらまで来て全開の笑顔で言ったことだからこそ、裏があるようにしか思えないのだ。
「ま、岬の言うとおりだな。時々クラスメートが憎たらしくなる。だって、いつもお前のそばにいるんだぞ?」
それに関しては岬も突っ込みは入れないでおいた。この手の言葉を言われたのは初めてではないが、柚月と付き合うまでは何故か?と思っていた。
放課後などいつでも会えるのではないか。それを楽しみに待てばいいではないか・・・。
だけど、今なら柚月の気持ちがよく分かる。好きな相手となら、いつでも一緒にいたい。
まぁ、周りに過剰に反応しないで欲しいという気持ちもあるのだが。
「こればかりは年が離れてるんだから、諦めるしかないでしょう」
自分に言い聞かせるためでもあった。今はこんな他愛もない会話をしているけれど、柚月はいずれ自分をおいて大学にいってしまう。そうなったら会う時間はますます減ってしまう。
当然柚月には柚月の生活があるわけで、向こうで友達が出来れば・・・これ以上考えるのはやめることにした。どんどん暗くなってしまいそうで、柚月に心配をかけることになる。
普段鈍くても、こういうときに気づいてしまうのが九条柚月という人間だ。
こういうことは前向きに考えればいずれどうにかなるものだ・・・そう言い聞かせる。
「そうそう、ちょうどいいところに・・・」
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「ほう・・・それは・・・」
がさがさとバッグから取り出したものは、ひとつの包みだった。今日という日、そして、包みから判断すると・・・。
「誰にもらったんだ?」
あまり動作には色気は見受けられないが・・・おそらく中身はチョコだろう。
岬ほどの男だ。もらわないはずがない。
普段は柚月がけん制しているおかげで友達を超えようとする輩はいないようだが、残念ながら今の時期は柚月もいつも目を光らせているわけではない。
無理すれば出来ないわけではないが・・・そんなことをすれば岬に嫌われるので、我慢している。
つまり、柚月がいない間であれば、チョコくらい渡そうとする人がいても、なんらおかしいことではない。それはわかっているのだが・・・。
「それを、俺に食えと」
柚月の口調が岬の前では中々見せない、冷気を帯びたものとなる。いくらなんでもあんまりだろう。
人からもらったものを食わせるなんて・・・いや、それ以前に自分という恋人があるのに、何故受け取ってしまうのか。
「・・・勘違いしないでください。俺は誰からも受け取ってませんし、そんなつもりもないです」
じゃぁ・・・と言いかけて、ひとつの可能性に思い至った。
「それはお前が、俺に?」
「俺の恋人は先輩しかいないはずですが。違いますか?」
確かにそうなのだが。やっぱり出す仕草に色気を感じることは出来なかった。
それが岬らしさでもあるのだが、クラスメートにやきもちを焼きまくっていて冷静な判断が出来なかった柚月を責めるのも酷だろう。
「そうなんだけど・・・まさか岬が俺にくれるなんて・・・」
そんなことは思いもよらなかったのだ。恋人同士なら当然なのかもしれないが、彼らは男同士。好き好んでチョコを買いに行くわけではない。
チョコが好きな人でも、この時期は自重するだろう。
だが、岬も同様だったらしい。頭をかきながら苦笑する。
「俺も・・・まさかこんなものを作るとは思いませんでした」
何だと!?柚月が大慌てをする。チョコをくれたことでさえ大喜びするべきことなのに、これは、岬の手作りチョコ・・・つまりは本命中の本命なのだ。
いや、付き合っている時点で、相手が男である時点で岬の本命は柚月でしかないのだが、手作り効果は柚月を撃沈させるには充分すぎる威力を持っていた。
「恥ずかしいんでそんなに驚かないでください」
一気に赤面してしまう岬を見て愛しさが湧き上がる柚月。人目もはばからずにぎゅっと抱きしめてしまう。普段ならまずは大慌てしながら引き剥がそうとする岬だったが、今はおとなしくされるがままになっていた・・・。
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