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(確かに正真正銘デートなんだが・・・)




理不尽な居心地の悪さに、柚月は苦笑する。
こんなデートにうってつけの日ゆえに、同じことを考える連中は世の中にたくさんいるわけで、何処に行こうとも二人きりになれるというわけではないが・・・確かに幸せなのだ。
デートだって楽しい。目の前の岬もかなりテンションが高いから、自分のテンションも上がる。
限られた人生楽しんだもの勝ちではあるのだが・・・どうもこの幸せさが不気味だ。




「先輩・・・どうしたんですか?」



岬の声にはっとする柚月。黙考していたせいで、恋人を放ったらかしにしてしまった。
せっかく誘ってくれた岬に失礼だ。これはバレンタインプレゼントだ・・・何とか頭を切り替えて、楽しむことに集中する柚月。


「どうもこうも、今日はお前が積極的だから」

それでも、口にしてしまう。柚月の片想いが長かったから、仕方ないといえば仕方がない。だが、岬もあまり気にはしていなかったようだ。

「たまにはそういうのもいいじゃないですか」

「まぁな。でも・・・俺のお株を取られたようで寂しい」

「ま、強引なのは先輩の特技ですからね」

そんな岬の言葉に苦笑する。柚月も多少強引な自分の性格は認めている。
そんな彼だからこそ生徒会長をやっていられるということもある。
だが、岬相手にはそこまで強引ではない。それどころか異常なくらい臆病だ。
多少引っ張っているように見えていても、いつでも離す準備が出来ている。なんだかんだ言って、岬の拒絶が恐いのだ。
だが、恋人はそんな柚月の心境は察していないらしい。


「そうなんだよな。ちなみに、あの写真はまだ捨ててないからな」

柚月と岬が一緒に写った最初の写真がある。それは、二人がキスしている・・・というとんでもない代物だった。
これ自体は柚月が撮ったものではなく、巻き上げた代物なのだが、これを盾につき合うように迫った柚月。
お互いの意思で付き合うようになった今では、大して持っている理由もない。
一度は処分しようと思ったが、せっかくの思い出、捨てるのはもったいないということで、いまだに懐にしまっている。


「うわっ、先輩やっぱり趣味悪い」

想像通りの岬の言葉。だが、もともと岬も予想はしていたようだ。大して驚いた様子は見せない。

「何を言うか。お前を好きになった俺の趣味は最高じゃないか。趣味が悪いのは、俺と付き合うことにしたお前のほうだろうが」

これは半分くらい本気も入っていた。柚月は岬を好きになったことを当然のことだと思っている。
明るくて、誠実な少年で、柚月を丸ごと受け止めてくれる。彼に引き寄せられないはずがない。
だが、岬に関しては今でも不思議に思っている部分がある。別に岬のことを疑っているわけではない。
人を好きになることに理由は要らないというが、どうして自分みたいな面白みのない男を好きになったのだろうか・・・。


「それなら、そんな『趣味の悪い俺』を好きになった先輩も・・・って、キリがないですね。さっきの言葉、取り消します」

あっさりと降伏する岬。適当なやり取りが柚月には心地がいい。今までこんなやり取りをする相手は家族以外にないなかった。
『家』のこともあってか、クラスメートはたいてい距離を置いてしまう。ただ一人彼に従っていた能勢が距離を置かなかったが、彼はもともと柚月には興味がないため、そこまで入り込みはしない。


「・・・どうかしましたか?」

「いや・・・なんだか幸せだなと思って」

思ったことをそのまま口にした。自分はとても恵まれている・・・それを実感する柚月。
もし岬に出会わなかったら・・・それを想像するだけで怖い。
ずっと敷かれている、行き先の決まったレールの上を歩いていたのだろうか。それを当たり前だと思い続けていたのだろうか。
別に柚月はそのような生き方を嫌うわけではないが、愛する人とともにある幸せを知ってしまった今、元のレールに戻ろうとは思わない。


「はは・・・俺も同じです。先輩がそばにいて、俺を抱いてくれて・・・」

ぎゅっと抱きつく岬。抱きつかれたところがほんのりと温かいのだが・・・柚月には何かしらの違和感を覚える。
ここまでテンションが高いのは何かおかしい。いや、本来だったらそれを喜ぶべきなのだろうが、岬は何かを隠しているんじゃないか・・・そんな疑問を持つ柚月。
普段の岬なら、まず、態度で表してくれ、思ってもいなかったときに言葉を漏らしてくれる。『抱いてくれて嬉しい』などと言うはずがない。どうも、必死に言葉を紡ごうとしているようだった。



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