PAGE.06

「何か辛いことでもあったのか・・・?」




岬は柚月に何かを隠している。
それは、岬の気持ちから来るものだ・・・思い付きを口に出した途端、先ほどまでの岬の懐きようが痛々しく見えてきた。
わざと懐いて、柚月の愛情を確認しようとしたのではないか?




「別に・・・そんな・・・辛いことなんて・・・」



弁解する岬の狼狽ぶりが、柚月に確信させる。

「なかったら・・・どうしてそこまで俺に甘えようとするんだ?」

言い方はおかしいのかもしれないが・・・その言葉とは違って別に岬は自分に甘えることが悪いとは思っていない。
それどころか、岬には甘えて欲しいと思っている。
本当はあれこれしてやりたいのに、基本的に何でも自分で片付けてしまう岬。甘えるのが自分ばかりで、これでは年上の立場が・・・とは思うのだが、この際それはどうでもよいことだった。
岬には岬なりの甘え方がある・・・付き合っていて、それに気づいていないわけではない。
だが、今回はかなり無理をしているように映るのだ。


「恋人に甘えちゃ悪いんですか?」

岬が幾分気分を害したようだ。口調が少し棘を帯びたものとなる。
もともと柚月の言葉にも問題があるため、仕方が無いといえば仕方が無いのだが。
もちろん彼もそれに気づいていないわけではない。いつもの柚月なら慌てて謝って、岬を立ててその場を丸く収めるだろう。
たとえそれが二年程度であっても無駄に長く生きているわけではないから、その方法だって知っているし、ベストだとも思っている。
だが、今回ばかりは勝手が違った。


「別にそれが悪いとは言ってない」

「言ってるじゃないですか」

これでは売り言葉に買い言葉だ。場の空気がどんどん悪くなる。
今の答えにはさすがに棘があった・・・柚月は反省する。
別に岬を責めたいわけではないのだ。自分に口を閉ざしているのがショックで。
ただ、これでは余計意固地になってしまう・・・柚月も口調をゆっくりにし、言い聞かせるようにして話す。


「言い方が悪かった。懐くなと言ってるんじゃないんだ。
俺はお前に甘えて欲しいけど・・・それだけじゃなく、何か辛いことがあったのなら、言ってほしいって言ってるんだ。
悪いが俺は岬と違って人の気持ちを全て察してやれるわけじゃない、ただの馬鹿な男だ。
だから俺の行動がお前を不快にさせてたら謝るし、直したいとも思う。
でも・・・言ってくれないとわからないことだってあるんだ。



それが・・・恋人じゃないのか?





柚月の知らないところで、岬は何かを溜め込んでいる。
それは、柚月に言えないほど、それか、言ってはいけないと岬が判断するほど大変なことなのだ。
だから、本来なら彼自身が口に出すのを待つべきだろう。いくら『ヘタレ』の柚月だってそのくらい分かっている。
だが、今を逃してはいけない・・・それは直感だった。




「・・・別にこれといって理由はないです」



だが、そんな柚月の気持ちには気づかなかったようだ。多少トーンは低くなったものの、相変わらず否定をする岬。
そんなに自分は信頼されていないのか・・・?悲しそうに目を伏せる柚月。




「そうか・・・わかったよ・・・」



これ以上言っても仕方がない・・・諦める柚月。そんな空気を察したのか、岬もそれからは一切触れてこなかった。



NEXT

TOP

INDEX