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(ったく・・・何でこんなに・・・)


疲れ果てて眠っている岬を、優しげなまなざしで見つめる。男役だから負担が少なかった・・・というわけではないが、早く目が覚めてしまった。
それからはずっと眠れなかったので、岬を見続けていた。




(俺は・・・相当幸せ者だな)



これだけ魅力的な少年に愛されて。普段柚月が抱えているような不安なども、岬が全て消してくれる。彼と一緒にいれば、何でもできる、そう思える。
もともと柚月自身何でも器用にこなすタイプではあるが、岬がそばにいれば、恐れるものなどない。
ただひとつ恐れるのは、岬だけだ。残念ながらたとえセックスでは主導権を握れても、ずっと岬には頭が上がらないだろうな・・・妙な確信がちゃんとある。


(ま、別にいいけどな)

今まで会ってきた人間と違い、岬は決して思い通りには動いてくれない。柚月が振り回されることだって、たくさんある。
だが、そんな自分は嫌いではない。恋人には格好いいところは見せたいが、『ヘタレ』の自分でも受け入れてくれることは知っている。




(愛してる・・・)



優しく恋人に口付けをする。こんな甘いキスなど、本来だったら恥ずかしくてできるはずがない。
たいていキスをするときは、不意打ちですることが多い。岬はたいてい怒るか苦笑いするかのどちらかなのだが・・・そのほうが照れ隠しが出来るのだ。


「そういうのは起きてるときにするものでしょうが・・・」

上手く段取りが出来るのなら、すでにしてますって。岬が相手なんだから仕方ないじゃないか・・・不満をぶちまけようとしたとこで、硬直する。

「み、岬くん・・・お、オハヨウゴザイマス」

「何、人の唇奪ってるんですか」

「い、いや・・・それは・・・」

岬の一睨みに、冷や汗をかきながら柚月は固まる。起きてるときにするよりも殺気があふれているには気のせいだろうか。
別に岬は寝起きが悪いわけではないが・・・彼の怒る理由が解らず、混乱する。


「そういうの、俺が起きてるときには絶対しないじゃないですか!いつも強引に奪っておいて、照れ隠しのつもりなんだかどうか、人をからかって」

岬の怒りの理由はそこにあるらしい。だから、それが自然に出来れば苦労はしないのだ。出来ればとっくに岬を落としている。

「照れ隠しって・・・気づいてたのか」

だが・・・岬の最後の言葉のほうにも彼は焦る。恥ずかしいからとひた隠しにしていたのが、岬には筒抜けだったのだ。

「ったく・・・気づかないわけないでしょう。俺を誰だと思ってるんですか?」

「それは・・・」

「そのくらい、見てれば分かります。俺だって先輩のこと、好きなんですよ?それを人が寝てるときに・・・」

「わ、悪かったって・・・」

「ま・・・そんな先輩だから・・・」

『放っておけないんだ』と言われ、柚月は苦笑する。そんなことをいう人は、今まで岬以外は存在しなかった。
だから新鮮な響きであるのだが・・・あまり褒め言葉ではないことは彼だって分かっている。
それでも岬に言われるのなら・・・などと思っている。


「だったら、放っておかなければいいじゃないか」

「そうは言いますけどね、放っておいてるのはどっちですか?」

『俺だ』あっけなく認める。ここ最近受験などいろいろ忙しくて岬を相手してやれなかったのは、紛れもない事実だ。それで岬を泣かせるまでに追い詰めたのも事実。こればかりは言い訳のしようがなかった。

「分かってるんならいいです。で、朝食、こっちで取るんですか?」

「そうだな・・・と言いたいところだけど、さすがにご両親に迷惑かけるからな。お前も学校あるんだろう?」

「そんなの・・・さぼります」

岬から出た『サボり』発言。妙な決意が感じられる彼に、頭をかく柚月。それは非常に魅力的なものではあるのだが・・・。

「今日は行け」

「あのー・・・俺、腰が痛いんですけどね」

『先輩に散々いじられたから』多少紅くなりながらつぶやく岬に至福のときを感じる柚月。
どっちかというと襲われたのは自分のほうだけど・・・というツッコミは、心の中でだけしておいた。したところで仕方がない。


「気持ちは分かるんだけどな。学校はいけるうちに行ったほうがいい」

「珍しく正論ですね」

即入った岬の突っ込み。家のお固さに対し、柚月は結構アバウトなところもある。彼曰く「今まで縛られてきた反動」らしいのだが。
そんなわけで、別に岬が学校をサボろうと文句を言うことも注意することもまずはなかった。


「まぁな。ただ・・・卒業も近くなって最近思うんだよな。限られた学生生活だからこそ、1日1日を大切にしておかないといけないんだろうなって。
それに・・・俺ももう少しお前の制服姿を見ておきたいからな。だって、制服って萌えの重要ポイントだろう?」


感傷的な部分を隠すために、最後はわざと軽口で付け足す。岬が柚月の卒業を寂しく思っているのと同じように、柚月も卒業して岬のそばから離れてしまうのを寂しく思っているのだ。去るほうには去るほうの辛さがある。

「・・・分かりました。本当だったら腰が痛いとか言って1日中先輩に甘えるつもりでしたけど・・・先輩もそう言いますし」

自分の言ったことを取り消そうか・・・本気で柚月は思った。岬がずっと甘えてくれるのなら、別に学校などどうでもいい。

(って・・・そんなわけにはいかないか)

本当にサボらせたら、岬の両親に怒られてしまうだろう。『元生徒会長が何てことを』とかいって。彼らを敵に回すなとは、暁からもいやというほど言われている。

「ま、そんなわけだ」

「そっか。先輩もそろそろ卒業するんですよね」

「そうだ。ほんと・・・時間が立つのは早いよな。って、今何時だ?」

「へ・・・まだまだ起きるには早いですよ」

「そっか。それならまだ寝てろ。時間になったら起こす」

時間になったらまた起こすから・・・と言ったのはいいものの、そのすぐあと柚月も眠りに入ってしまい、目覚めたのは、時間ぎりぎりのところだった。

夢の中に岬が出てきて起きたくなかったのは、一応秘密の話である。



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