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(これは怒られるだろうな・・・)
そのメールを見たのは、午後のことだった。帰宅して受験勉強をして、一息ついたときの話だった。
岬からのメールがあったが、妙に殺気立っていた文だった。『今日時間作ってください』ただそれだけだったのだが・・・嫌な予感がする。
別に浮気などしているはずがない。以前だったら付き合いは広かったので、そんなことがあってもおかしくはなかった。
だが、今は岬一筋だ。他の男なんて考えられない・・・という弁解さえ必要ないのだ。それなら何故・・・
(まさか・・・あれか・・・?)
部屋に不動産のパンフレットを置いていたのがまずかったようだ。それを真雪が見つけ、何らかの拍子に岬に話でもしたのだろう。そう考えるのが妥当だ。
残念ながら跡を継ぐと決めた薫が学生が住むのにふさわしそうなアパートを借りるとは考えにくい。真雪は口の軽い子ではないから、岬が知っているとでも思ったのだろう。
(知ってるわけ・・・ないじゃないか)
岬が知ったら絶対反対する。だから秘密裏に事を進めていたのだ。それで、ある程度事が決まったら事後承諾的に報告。
一発くらい殴られそうだが、覚悟済み。それなのに・・・詰めの甘さを痛感する柚月。
(まぁ・・・おとなしく怒られるか)
岬に相談しなかったのがいけないのだから。一応暁には話してある。援助を受ける身だから、それは当然のことだ。反対はされなかった。自分がそれを選ぶのなら・・・と許してくれた。
薫には、怒られた。中々親の帰らない家であるうえ、一人抜けたらまた寂しくなる・・・とのことだった。まな板の鯉、覚悟を決める柚月。
「先輩、何のことだか説明してもらいましょうか」
来た!地獄の炎を背負って、恋人がやってきた。
「何のことって、何のことデスカ?」
のほほんととぼけようとしたが、岬の一睨みに屈した。
「先輩、独り暮らしするんですか?」
やっぱり怒りの原因はこちらにあったらしい。黙っていたのが悪かったか。本人以外から聞いたのが良くなかったか。
岬には辛いことがあったら言ってくれといったのだから、こればかりは怒られても仕方がないか・・・柚月は苦笑する。
「あぁ、黙っていて悪かったな。最近ずっと考えていたんだ。まだ俺は子供だから、全額自分でどうにかすることはできないけど、独りで暮らすのもいいって・・・」
「大学、遠いんですか?」
「いや、別に遠くはないけどな。実家からでもいけるところだ・・・ほら、あの・・・」
大学の名前を言ってやると、岬が一気に凍りついた。
彼の学力からすれば厳しいのかもしれない。もう少しランクを下げたほうが良かったか・・・確かに一時期はそれも考えたが、家を黙らせるにはいい大学に自分で入ってやるのが一番だ。
「別に実家から行っても良かったんでは?」
とはいえ、ランクの高い大学に行くことは大して問題は無かったらしい。遠くに行く心配がなくなった安心のほうが大きかったようだ。
岬の怒りは一気に解ける。だが、今度は実家からいけるのに・・・という疑問もあるのだろう。
「まぁね。俺もずっとそう考えてたんだけど・・・ちょっと外の世界を見てみたくて。今までずっと『鳥籠』だっただろ?決められた生活で。
だから・・・ちょうどいい機会だし、視野を広めるためにも独立しようと思うんだ」
岬には気まぐれみたく言ったが、実際には岬と付き合い始めたころからこのことは考えていた。
別に家が嫌いなわけではない。『鳥籠』といったのも、これは薫の言葉を引用しただけで、柚月自身はあまり締め付けは感じていない。だが・・・。
「ゆっちゃん、別に気に病む必要はないのよ・・・」
唐突に現れた薫の声に、慌てて振り向く二人。
「気に病む・・・ですか・・・?」
不穏な薫の言葉に即質問を返す岬。せっかく岬が納得してくれそうなのに、こんなところに現れてほしくなかった・・・頭を抱える柚月。
「柚月、君は外の世界が見たいとか、岬君と二人きりでいちゃつきたいとか、もっともらしいことは言ってるけど・・・」
いちゃつきたい一心で独り暮らしをするのか・・・嬉しい反面、自分に黙っていたのが許せない・・・そんな気持ちが満載、半眼で見る岬には答えは返さなかった。今言わなくても、薫が続けるだろう。
「本当は僕のことを気にしているんだろう?」
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