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前だったら、周りの事なんか考えなかっただろう。自分のやりたいように行動する。
だが、今は大切な人がそばにいる。弟もそうだし、恋人だっている。その存在を守るためなら、ある程度融通を利かす・・・それができるようになったのは、進歩かもしれない。
そばにいた弟をぎゅっと抱きしめる。
「兄さん・・・?」
腕の中の真雪は驚いているようだ。まぁ、同性にスキンシップされるのが苦手―岬相手には許しているのかもしれないが―なのだから、仕方ないといえば仕方が無い。
拘束を解いてやろうとすると、慌てて真雪がしがみついてくる。
「抱きしめてもらったの、初めてかも」
別に彼は嫌がってはいなかったようだ・・・一安心する。真雪がそういう意味での対象になるわけではないが、拒まれたらショックではある。
考えてみたら真雪を抱きしめたのは初めてだ。利用できるものは利用する性格の薫とは違い、彼が家に来たころは、何かしらのわだかまりを抱いていた。
それも少しずつ消えていき、いつか抱きしめてやろうと思ったときには、真雪は柚月の人間関係のせいで男嫌いになっていた。
男嫌いが少し直ったかと思えば、焼餅をやく対象になってしまった。だから、こんな日が来るとは思ってもいなかったのだ。
「嫌なら離すけど?」
わざとそんな声をかけてみる。だが、彼自身は今離そうとは思わなかった。
たとえ恋人が目の前にいたとしても。
「別に・・・嫌とは言ってないよ。ただ・・・」
真雪には心配事がある様子。もちろん柚月もその理由はわかっている。
「兄さんが抱きしめる相手は・・・」
『自分ではなく岬』だと言いたいのだろう。
確かに彼の言う通りなのかもしれない。柚月の恋人は岬だ。
彼の前で弟、しかも岬が好きだった少年を抱きしめるのは不謹慎かもしれない。
だが、今の柚月にとってはこうすることが最高の選択だと思えた。もちろん・・・真雪がそれを嫌がらないのであれば、の話だが。
「細かいことは気にするな」
ホントは細かくないことなのだが・・・柚月もそれは気にしないことにした。こういうときくらい兄としての愛情を注いでやりたかったのだ。
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「岬君、妬いてるの?」
兄弟のラブシーンを目撃していると、薫に聞かれる。
「まぁ・・・なんというか・・・」
もちろん、何も思わないわけではない。ただ、柚月と真雪には仲良くなってほしいと思うことも事実で、彼の心中は複雑なのだ。
「他の男だったらやっぱり許せないけど、真雪くんだったら仕方ないかな・・・」
と、思うことにした。
「ふふ・・・じゃ、僕が慰めてあげようか」
「いえ、それは遠慮します」
そんなことをしたら、柚月に何をされるか分からない。
ただ、彼も本気で言っているわけではないことは知っている。薫の弟たちを見る目は優しそうだ。
「それは残念だね。あの子たちのことだけど・・・今日くらいは大目に見てやって」
「そのくらい、分かってますよ」
柚月は大切な恋人だけど、真雪のことだって大切な友達だと思っているのだ。
大切な人たちの間の溝がなくなるのは、とても嬉しいことなのだ。
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