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無事大学の合格が決まり、早いもので今日は卒業式。結局のところ岬とはちょくちょく会っていた。
ずっと我慢していたのに、一度会ったせいですぐ禁断症状が出てしまうのだ。最もそれは岬も同じだったようで、受験勉強中だろうが遠慮せずに遊びに来るようになった。
それで勉強に集中できたのだから、結果オーライである。




「先輩、どうかしたんですか・・・?」

後輩の声で我に返る。声の主は、現生徒会長の風祭だ。柚月が会長の時には副会長だった。
それはワンマンだった柚月の被害者であることに他ならないのだが・・・。


「いや、時が経つのは早いな・・・と」

恋人のことを考えていた・・・別にここで言う必要はあるまい。

「そうですね。僕も九条先輩がこうして卒業するなんて・・・今でも信じられません。僕にとって先輩は目標だったから」

「おい、それは大げさだろう・・・」

想像を絶するほめ言葉に柚月が苦笑する。それ自体ずいぶんと変わったものだ・・・心の中で更に苦笑い。
本来だったらそのような賛辞は当たり前のように受け取るだろう。そして、それをどうとも思わない。


「大げさなんかじゃないですよ。本当に先輩はすごいと思います。あれだけの生徒をまとめ上げて・・・僕に先輩と同じことが出来るかどうか・・・」

「いや、わざわざ九条の真似なんかする必要ないさ。風祭には風祭のやり方があるわけで・・・」

即、能勢がフォローする。彼も柚月の独裁の被害者の一人だ。本人曰く『強面だけど優しい』とのことだが、同じ副会長として後輩の風祭の面倒を見ていた記憶がある。
基本的には自分のことしか考えない柚月よりも、彼のほうがずっと面倒見はいい。


「まぁ、あれだ。前に進むことは誰でも出来る。だけど、それを続けることは誰にでもできるわけではない。
そういう意味で風祭は良くやってると思う。
ただ、俺を意識しすぎて風祭自身のよさを見失いかけてるんじゃないか・・・そう思うときもあるんだ。
だから、もう少し自分に自信を持つことだ。そうすれば自ずと人もついてくるさ」


柚月なりの励ましだった。別に風祭が柚月に劣るとは思わない。
それどころか、まず人のことを考える彼のほうがこの役職には向いているだろう。
独裁者の次に独裁者は必要がない。だからこそ、柚月も風祭を後継にしたのだ。
そのはずだったのだが・・・その言葉に対し、風祭の目がまん丸になる。


「・・・珍しいですね。先輩が人を褒めるなんて・・・僕が生徒会に入ったときから、なかったような気がします・・・」

「そうか?」

とぼけてみたものの、それは本人も自覚している。ただ、褒めるのが嫌いなわけではない。褒めるほど大して人に興味がなかっただけだ。
あくまでも自分の野望達成の駒に過ぎなかった。それを出来るようになったのは・・・ほぼ確実に岬のおかげだ。彼を好きになれたおかげで、周りを見る余裕も少しだけ出来た。


「やっぱり・・・あの子のおかげですか?」

「あの子って・・・あぁ、岬のことか。そうだな。あいつがいるから・・・」

からかい半分に聞かれるが、臆面もなく答えてのける。事実だから照れる必要もない。

「それなら・・・生徒会に誘えばよかったのに・・・ですよね、能勢先輩」

「そうなんだよな。俺もそうするかと思ったんだけど」

能勢は実際に岬と会っているようで、その上での判断らしいが、それには笑って誤魔化しておいた。
柚月もそのことは考えなかったわけではない。自分のそばにおいておくには一番いい選択肢だ。
だが、それで岬を縛りたくはなかった。生徒会で拘束されるより、自由気ままに生きるほうが岬には似合っている。
そして・・・生徒会で忙しくなって柚月と会う時間が減ってしまえば、それこそ本末転倒だ。


「ま、そんなことをしたら・・・」

「独占欲満載ですね、先輩」

「いたるところに殺気を撒き散らしやがる」

即入った風祭の突っ込み。それに能勢も同調している。その気持ちもないわけではないが・・・そう思わせておけばいいだろう。
生徒会の連中と去年からするようになったこんなくだらないやり取りが好きだった。それも今日で終わるとなると、やっぱり寂しいものがある。


(もう・・・今日で・・・卒業なんだよな・・・)

三年間は長いようで短かった。特に岬と知り合ったこの一年は、めまぐるしく過ぎていった。
今まで殻に閉じこもっていた自分を外に引っ張り出してくれた、世界で一番愛しい少年。いくら関係が終わるわけではないとはいえ、学校という同じ場で会えないのは・・・。


「風祭、この辺にしておいてやれ。九条も行くとこ、あんだろ?」

そんな彼の気持ちを察してくれたのか、能勢が切り出してくれる。だが、風祭は少し名残惜しそうだった。

「悪いな、風祭。こいつ置いてってやるから、後は好きなようにしてくれ」

風祭が本当に懐きたいのは、自分でなく、能勢だろう。だから、彼は後輩に最後のプレゼントをすることにする。

「・・・仕方ないですね。先輩にはちゃんと行くべきところがあるから。それでしたら今日はこの辺にしておきます。
また今度生徒会で打ち上げやりますから、そのときは能勢先輩たちと一緒に来てください」




おそらく風祭は柚月が今日誰と一緒にいたいかを察していて打ち上げの日程を今日にしなかったのだろう。そんな心遣いが彼には嬉しかった・・・。



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