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基本的に卒業式の日は、やることがない。
部活の先輩後輩など、縁のある生徒はそれぞれ別れを惜しんだり、先輩を送り出してやったりしていたのだが、残念ながら真雪にはそういう付き合いをする相手が居ない。
だから、最近なんとなく話すようになった間宮とのんびりと時間を過ごしていた。


「九条先輩のところには行かないのか?」

「兄さんとは家でも会えるから。間宮君こそ・・・」

「あぁ、俺、部活やってないしな・・・。それより、行ってやったら喜ぶんじゃないの?」

「兄さんは・・・たぶん僕が行くより・・・あ」

岬が行ったほうが喜ぶ・・・そういおうとしたところ、教室に噂の兄が入ってくる。
廊下でいろいろと絡まれたのか、少しやつれた様子を見せていた。


「兄さん・・・卒業、おめでとうございます」

「あぁ・・・ありがとう」

軽く微笑んで、真雪の頭に手を置く。なでてくれているらしい。真雪はおとなしくされるがままになっていた。
最近彼も変わったものだ。柚月に嫌われていたことは知っていた。それは仕方のないことだ。
自分は後から来たよそ者なのだから・・・自分の立場くらい、分かっていた。
長兄の薫は勝手に寄ってきた。オカマではあるが、人自体は悪くはなかった。だから真雪も真雪なりに懐いたつもりだった。

だが、柚月はそうもいかなかった。建前上なのか、無視をするようなことはしなかったが、到底好かれているとは思えなく、そばに居るのが恐かった。
でも、その中にちょっとだけ優しさが見えて・・・。更に仲がギクシャクしたときもあったが、最近は彼のほうから声をかけてくれるときもある。
本当に大切な兄なのだ。だが、その兄は自分に会いに来たわけではない。自分の大切な友達、そんでもって、柚月の恋人に会いに来ただけだ。

ちょっと寂しいが、大切な人が幸せならそれでいいか・・・思い直すことにする。


「瀬古くんならトイレだけど・・・待ってる?」

「いや、さすがに俺がいると迷惑かかるから・・・」

苦笑いしながら彼は拒否をする。それでも本当はいち早く岬と会いたいという気持ちが見て取れる。
冗談抜きにこれ以上柚月がいれば、ここは人だかりになってしまいそうだ。
現実問題、今柚月の背後で彼と話したそうな人が多くいる。そして、今日は卒業式。柚月と会う機会はなくなる。これ以上教室にいることは危険だ。


「わかった。瀬古くんが戻ったら伝えておく」

名残惜しそうだったが『あぁ、頼む』とだけ言って教室を後にする。だが、タイミングの悪いことにトイレに行っていた岬が帰ってくる。
もう少し待っていれば・・・と思ったが、帰ってしまったものは仕方ない。


「あぁ、瀬古くん。ちょうど今兄さんが来て・・・」

「え?もう行っちゃった?」

『兄さん』との言葉で即表情が明るくなる。やっぱり両想いなんだな・・・苦笑いしながら言葉を続ける。

「うん。でも、まだ遠くに行ってないんじゃないかな・・・」

居場所を聞いておけばよかった・・・そう思ったものの、過ぎてしまったことはしょうがない。
それに・・・別に聞かなくても問題はなかったようだ。岬の表情から察するに、居場所の見当はついているようだった。


「俺・・・先輩のとこ、行ってくる」

行ってらっしゃい・・・笑顔で見送ったあと、真雪はため息をつく。

「行ってほしくなかったらそう言っとけば良かったんじゃないの」

真雪の気持ちを見抜いてるのかどうか・・・ボヤキ気味に聞いてくる。

「間宮くんは馬にけられる趣味、あるの?」

「それはないな」

お互い顔を見合わせて苦笑する。両想いの人間にどうこうしようということは野暮でしかないのだ。



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