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屋上でのんびりと柚月は人を待っている。
うっかり待ち人には場所を告げなかったが、追ってきてくれるだろう。それだけの自信はある。
一年の教室が最上階になければ屋上に来る前に会えたかもしれないが、こればかりは廻り合わせだから仕方がない。




「やっぱり・・・ここでしたか」



想像どおり、恋人が来てくれた。携帯がならなかったところから考えると、即ここが思いついたようだ。自然に彼の口から笑みがこぼれる。

「やっぱり、ここなんですよ」

茶目っ気たっぷりに岬を迎える。
この屋上は柚月にとってさまざまな想い出がある。
初めて彼とキスをしたのがこの屋上だった。
そのときは半分以上強引なものだったが、それでも大切な思い出として心に残っている。
とはいえ、最初は教室で待とうかと思った。そのほうが岬を捕まえるには確実である。
だが、『待つ』にはここしかなかった。




「卒業、おめでとうございます」



「ぜんぜんおめでたくないな」

そんな後輩のお祝いの言葉には、ちょっとだけ憮然として返す。
その言葉は行く先々で言われ、そのつど笑って返してはいるが、実のところ最愛の後輩と離れてしまうことは、おめでたくも何ともなかった。
何度卒業する自分を呪ったことか。


「同じです。だから、お祝いのブツは何もありませんから」

本人の言うとおり、手ぶらだった。それはそれで少し残念であるけれども、岬がいてくれるのが一番のプレゼントだ。
岬を手招きし、フェンス際に座らせる。で、柚月は岬の胸に寄りかかる。顔は見えないが、岬の体温が心地いい。


「プレゼントなんかなくてもいい。お前さえいてくれれば」

それは、くどき文句でもなんでもない、純粋な柚月の本音。

「大丈夫ですよ。出来る限りそばにいてあげます」

即岬は返すが・・・人を好きになるとどんどん貪欲になるもの。その言葉に素直に満足できない柚月がいる。

「ずっと・・・って言ってくれないんだな」

少し岬を困らせることにする。今まで先輩の特権を使っていろいろと岬に悪さをしたが、明日からは『柚月先輩』ではなくなる。
それが急に何か変わるのかといえばそうでもないのかもしれないが、それでも起こるであろう『変化』に何も思わないわけではない。
『出来る限り』というのは高校大学と離れてしまうから出た言葉だということは知っているが、それでも・・・。


「ったく・・・先輩は人が困るのを知ってて・・・」

ぎゅっと柚月を抱きしめる岬。それに身を任せてのんびりと空を見つめる。時々気まぐれに人の髪の毛をプチプチ抜いて遊んでいたが、それは無視しておいた。

「あぁ、本当に俺はお前を困らせ続けてきたな」

「なんですか、急にしおらしくなって」

警戒をする岬に、苦笑いをする。

「いや・・・昔のことを思い出していたんだよ」

「昔って・・・一年くらいでしょうが」

『昔』がどれを意味しているかは岬も分かっていたようだ。『そんなにもなるのか』しみじみと過去のことを思い出す。
たまたま弟の場所を聞いた。そして、気まぐれに少年の名前を聞いた・・・それが始まりだった。
だが、それがここまで大きな存在になるとは思いもよらなかった。



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