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「岬、お前自分がホモになることは想像できたか?」


ふとしたその疑問。自分の存在が岬の人生を大きく変えてしまったのだから、柚月が気になるのも無理はない。だがそれに対し岬の機嫌が少し悪くなる。

「俺、別にホモって訳じゃないんですけどね」

男を好きになったくせに、ホモ扱いされるのは嫌いらしい。

「真雪を好きになったんだよな」

「あーそれは・・・えっと・・・」

岬がうろたえているのが、直接肌に伝わってくる。今も非常に仲のいい友達のようだ。
別に、そのことでいやみを言うつもりは全くないが・・・それでも真雪に焼餅を焼いていることは事実だ。
彼らは同じクラスだから、一緒にいることが出来る。来年もそうなるかはそのときになってみないとわからないが、同じ学校にいるかいないかでは根本的に大きく違う。
岬と真雪のように、どんな些細なことでもいい、少しでも共有できるものがほしかった。




「でも・・・俺を選んでくれたんだよな・・・」



それでも、今岬の腕の中にいるのは、真雪でなく柚月なのだ。
この先真雪に対してやきもちを焼くことがないとは言い切れない。残念ながら柚月はそこまで寛容ではない。
ただ、岬の意思で柚月と付き合っている・・・その事実があれば、多少の寂しさは我慢出来る。




「そうです。先輩の言うとおり、最初は・・・真雪くんが好きでしたけど、でも、俺は今は先輩のこと、愛してますから」



「そうか・・・ありがとな」



『俺みたいなのを好きになってくれて』口には出さずに、恋人の手を握った。だが、恋人からは甘い反応が返ってこない。

「何か・・・別れの言葉みたい・・・」

顔は見えなくてもむすっとしているのがよく分かる。

「何がどう別れなんだ」

「今の『有難う』はこれから去っていく人の台詞です」

文字通り去っていくのだから仕方ないじゃないか・・・それを言うのは堪えておいた。
今それを言えば確実に岬に怒られる。それに・・・岬の言う別れはもっと深い意味のことだろう。ずっといなくなってしまうという不安がそこにあるのだ。
どうやら学校での別れを寂しく思うのは柚月も岬も一緒らしい。


「だったら・・・追いかけてくればいいじゃないか。瀬古岬って奴は、置いてかれたら待ってるだけって奴なのか?」

岬負けず嫌い・・・と言えば聞こえはよいが、実のところは結構挑発に乗りやすい・・・ただそれだけなのかもしれない。
どうも岬と付き合ってみるとそのような気がしてならない。別に単純というわけではないのだが・・・。


「言ってくれますね、先輩。そこまで言うのなら覚悟しておいてください。俺は絶対貴方を逃がすつもりはないですから」

と、きっぱり言ってくれる。そこが岬のいいところだ。
もちろん、柚月だって岬を逃がすつもりは毛頭ない。
逃げようものなら、地の果てまで追い詰める・・・度胸があるかどうかはそのときになってみなければ分からないが、一緒に進もうと決めても諦めるしかなかった父親と同じ道を進むつもりはない。


「はは、期待して待ってるぞ」

暗くなりかけた自分の気持ちも、岬のたった一言で浮き上がってしまう。
気を遣ったからとか、何か打算があるとか、そういうものではない。彼は自身の純粋な気持ちを口に出してくれる。
だから岬を好きになったのだ。




「あ、そうそう。もし大学で男を作ったら・・・どうなるかわかってますよね」



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