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『誘ってるんですか?』挑発的な岬に苦笑を隠せない。
岬といたしたい気持ちは腐るほどあるが、今回ばかりはそれが目的ではなかった。岬の抱えているものが少しでも軽くなれば・・・そこから出たものだった。
だが、それを岬が知る必要はない。


「あぁ、誘ってるよ」

「やっぱり変態だ・・・」

そんな岬の言葉には・・・

「あっそ。それなら別にやらなくてもいいんだけど。俺、どうも相当な変態みたいだし」

拗ねてやることにする。それで岬が謝ってくれれば万々歳なのだが・・・。

「別に俺はそれでも構いませんよ?別に俺は先輩の身体目的ってわけじゃないし・・・」

返ってきたのはこんな答えだった。もちろん彼の言いたいことは分かる。
ヤリ目的ではない・・・つまり身体だけでなく心も愛してくれているということなのだろう。だから別に岬の愛を疑うつもりはない。
だが・・・相手をほしがっているのは自分だけなのか。これは柚月の下らない意地だということは分かっている。それでも・・・。


「残念だな。せっかく今日は持ち帰ろうとホテル取っといたのに・・・仕方ない。寂しいけど一人で泊まるか・・・」

誰もが知っている超高級ホテル、わざとらしくその名前を口に出すと、少し反応がある。どうやら柚月の身体はともかく、こっちには関心はある様子。
自分の身体よりもホテルに興味を示すのは恋人としての立場からするとあまり嬉しくないが、気の変わらぬうちに釣り上げてしまおう。それがいい。


「ホントは岬と泊まりたかったんだけどな・・・別に俺とHする気はないって言うし・・・そんなときに無理やりつれまわすのも・・・」

「わ、分かりましたよ!え、Hはともかく・・・卒業式の日くらい、そばにいてあげます」

ここで獲物がかかった瞬間だった。





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落ち着きなく周りを見回す岬を見ていると吹き出しそうになるが、何とか柚月は笑いを堪える。ここで笑って岬の機嫌を損ねる必要はない。

「そんなに珍しいか?」

「そりゃそうですよ。俺んち知ってるでしょ?」

それは『岬の家が一般的な家だから高級ホテルに泊まる機会はない』と言いたいのだろうか。

「まぁ、時々お邪魔させてもらってるからな。普通高校生が来るようなところじゃないことは確かだけど、珍しいものじゃないだろ」

柚月の家は確かに一般常識とはかなりかけ離れているし、柚月自身も常識外の存在であるが、そこまで感覚がずれているとは思わない。
ただ単に機会がなかっただけだろう。


「じゃ、先輩は結構泊まってるってことですよね」

「そりゃな・・・」

嫌な方向に話が進みそうだが、否定する理由がなかった。
実際に彼は同年代の人間の中ではよくホテルに行くほうだろう。かつては九条グループの実権を握ることになっていたため、それこそ中学のときから一回り二周り以上上の人間と接する機会も多かったのだ。
当然その会場がホテルの場合も多かった。


「で、いろんな人と・・・」

『セックスをしたのか』口には出さないが表情で言いたいことはよく分かる。
正直柚月は迷った。今までの経験は彼にとっては過去の出来事でしかない。今となってはどうでもいいことだ。
だが、岬にとってはどうなのだろうか?これは正直に言うべきなのだろうか?それとも、わざと煙に巻いて安心させてやるべきなのか。
柚月を見る岬の瞳は、決して笑ってはいなかった。しかし、怒ってもいなかった。それならば・・・。



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