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『いろいろな人と寝たのか』直接的な質問ではなかったが、そのくらいは伝わってきた。
残念ながら柚月に過去を消すことはできない。今できるのは包み隠さず正直に答えることだ。それが彼への誠意だろう。
「あぁ、そうだな。色々としてきたな。俺が部屋を取ることもあったし、向こうが用意してくれることもあった。回数は聞くなよ。そんなの覚えてないから」
あからさまに非難めいた視線を送るが、それは無視しておいた。別にセックスの回数など重要なものだとは思わない。
「俺にとってのセックスはそんなものだったんだよ。スポーツとかと同じ。気持ちがいいだけで別に思い入れがあるわけでもない」
「昔から変態だったんですね・・・」
いつも言われているはずの『変態』という言葉。だが、今岬は非難の意味もこめて使っている。
「残念だが・・・それとは関係ないぞ。確かに趣味で食った奴もいるけど、大部分は・・・」
九条のバック・資金を得るためのことだった。だから、柚月に抱かれに来たものは、皆従順だった。
「結構大変だったんですね。でも、もとからそのケはあったんですか?」
「あぁ、ホモっ気ね?まぁ、兄さんが昔からあんな感じだったから抵抗なかったとは思うけど。さすがに俺と同じくらいの奴が来て『抱いてください』と言われた時は驚いたけどな」
岬と出会う前は基本的に相手に固執しなかった柚月だが、そのことだけは覚えている。
何もしないで返すと相手の立場がなくなることと、せっかく来たのだから・・・ということでほんの軽い気持ちで抱いた、それが始まりだった。
「俺とも、そんな感じですか?」
『せっかく出会ったのだから』一見楽しそうに聞いてくる岬。興味本位で聞いているように装ってはいるが、目は全く笑ってない。
それどころか、殺気が浮かんでいる。
「いや、お前はぜんぜん違う。確かに色々遊んできたけど、それで満たされたことはなかった・・・いや、満たされていないことに気づかなかったといったほうが正しいかもしれない。
気持ちはいいけれど、別に何かが残るって訳じゃない。別に次同じ相手としなくても困るわけでもない。
今から思うと、何馬鹿なことをしてたんだって感じかな?」
愛のないセックスに意味がないことを知ったのは、岬と出会ってからだ。
彼を好きになってやっと今までの自分がどれだけ薄っぺらかったかに気づいたのだ。
「ま、あまり聞きたくないような話だったかもしれないけどな」
恋人の前でかつての相手の話をするのだ。それがデリカシーのないことだとは分かっている。
だが、それでごまかすようなまねはしたくなかった。
「いえ。先輩の話なら何でも・・・」
と言っている割には殺気が消えていないのは気のせいだろうか?いや、絶対気のせいではない。焼餅を焼いてくれているようだ。
「でも、今は本当にお前だけだ。誰か側にいてここまで満たされるのは・・・残念だけどお前しかいないんだよ」
それからは何も言わずに岬をベッドに横たわらせた。岬もそれに抵抗することはない。
「やる気満々ですね」
苦笑いした岬を見てちょっと考え込む。ふと学校で岬に言われた言葉を思い出した。
別にセックスしなくてもいいようなことを言われていて・・・口の端だけ軽く上げる。
本能的に危機を察したのか岬も逃げようとするが、片手でそれを封じる。
空いた手で自分のネクタイをはずし、岬の手首を縛った・・・。
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