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「なに・・・?」


『自分のことを信じていない』と少しさびしそうにつぶやく岬。
それは柚月にひどいことをされたからしている表情ではない。怒っているのではない。傷ついているようで・・・。


「俺がどんな気持ちでここにいるか分かってます?
こんな恥ずかしいカッコウさせられて。まるでレイプじゃないですか」


「あぁ、済まないな」

岬の言葉で柚月も一気に冷静になった。
だから今度は先ほどとは全く違い・・・何も抵抗もなく腕の戒めを解いた。
これでは岬に愛想つかされても何も文句は言えないだろう。恋人の嫌がることをしたのだ。


「本当に・・・」

先ほどはずしたボタンをきちっと元に戻してやった。

「はぁ・・・先輩、分かってないですね」

「ごめん」

「じゃなくて・・・そんな縛らなくても俺は逃げないですよ。他の男だったらぶっ殺してますけど、先輩だから許せるんですよ。
大体・・・本当にいやならこんなになってないですよ」


自分自身を指差す岬。

「ったく・・・何で俺って・・・。とにかく、先輩とセックスしなくてもいいなんてわけないですから。
どうせさっき俺が言ったことを根に持ってるんでしょ?
さっきみたいに言ったのは、別に身体だけが好きだって訳じゃないことを言いたかったわけで・・・そのくらい察してください」


多少赤くなりながら弁解する。



「俺がそんな器用な人間じゃないことは知ってるだろう」



「そうでした。難しいですね。思ってることは言わないと伝わらないか」



勝手に納得したように岬はつぶやく。

「先輩は以前どんな男と付き合ったのかは知らないし、知りたくもないですけど、俺は別に九条だからというわけでもないし、お金持ってるからというわけで先輩を好きになったわけじゃないから。
そりゃ、先輩とのセックスが気持ちい・・・ということもあるけど、俺、好きでもない人となんかわざわざしたいとも思わないですよ」


さりげなく手厳しいことを言われているような気もするが。

「俺は先輩のことが好きだから。だから・・・そんな縛ったりなんかしないで、しっかりと抱いてほしいです。
俺は何があっても逃げたりしないから・・・ね?」


柚月の抱えている不安は岬には筒抜けだったようだ。

「俺が好きなら、縛られたって別に・・・」

「そうですね。そういうプレイが好きなら、俺はいいですよ。たまには・・・いや、やめときます。
本当に先輩ならしそうですから。俺の身体が持たないし・・・てか、なんというか・・・好きな人に触れられないってなんか嫌だから・・・」


『だから俺は縛られたくない』そういわれると、柚月に返す言葉がなくなる。



「ったく・・・ホントにお前は俺の言いなりにならないな」



そうぼやく柚月に不機嫌さはまったくない。それどころか、すごく幸せそうで。



「そんな俺が好きなんですよね?」



返す岬も楽しそうだ。



「そゆこと。じゃ、今日くらいはしないで終わらすのも悪くないかな」



さっきの行動とは正反対。だが、それだけ柚月も満たされていた。
別にセックスしたいから岬が好きなわけではない。だが、結局岬は彼の思い通りにはならないのだ。




「それじゃ、困るんですよ」



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