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好奇心、猫を殺すとも言うが、一度気になってしまえば、それを抑えるのは難しい。岬は真雪にまとわりついた。
一般的にはそれをストーカーというのだが、本人は案外そうだと気づかないものである。だからこそ、やっていられる。
ただそれは、岬自身想像のできなかったもので、本人すら戸惑っているのが実情である。




ただ、決してその努力は無駄ではなかった・・・のかもしれない。
大まかではあるが、真雪の行動パターンが見えてきた。まず休み時間には、本を読んでいる。
ハードカバーから文庫本まで種類はまちまちだが、このタイミングに声をかけてはいけないことは共通している。
何も言わないけれど、あからさまに非難めいた視線を送るのだ。
残念ながら岬には『もっと俺を責めて』などという嗜好は持ち合わせていない。


だが、昼休み、食事後には少しだけガードがゆるくなるようだ。
隣にいても、不用意に踏み込まずに最大限真雪の意思を尊重しながら話をしていれば、大して怒ることはしない。
その条件を満たした上で、真雪の気が向けば岬の話に相槌を打ってくれるようになる。そんな変化が岬には嬉しかった。




「君も、相当物好きだね」



やっとしゃべってくれたと思ったら、容赦のない一言。物静かそうな真雪からそのような毒の含まれた言葉が出るとは考えられなかった。
そんなギャップに戸惑いを覚えたが、あえて口に出すようなまねはしない。



「物好きって・・・」


否定したいのではなく、充分自覚しているのだから、言われたくなかった。
事実は人を傷つけるもので、岬の友達からは、痛いほどそれを言われている。
真雪が想像以上に冷たいため、時々諦めようかとは思っているが、諦めたらおしまいだから、出来るだけのことはしてしまおう・・・そんな覚悟もしている彼。
生半可な覚悟では真雪にまとわりつきはしない。




「僕じゃなくて、兄さんにまとわりつけばいいのに・・・」



岬にとっては恥ずかしい話だが、今初めて真雪の一人称を知った。
それはともかく、何故柚月にまとわりつく必要があるのだろうか。彼には人がたくさんついているから、わざわざ岬がそうする必要はないだろう。
いくら兄弟だとはいっても、岬にとって柚月は他人でしかない。しかも、自分が鬱陶しいからという理由には思えなかった。
何か思うところがあって言っているのだろうが、岬にその真意は読めなかった。


「どうして先輩に・・・?」

「僕と話して楽しい?」

「え?」

突然聞き返され、彼は答えに詰まった。
つまらないということは決してないが、楽しいとも思える会話をしていないことも確かである。


「君みたいなタイプは、多分兄さんと合うと思う」

ちょっと切なそうな顔をされ、自分の兄にコンプレックスを抱いていることを察する。
恐らくそれで辛い思いをしたことが数多くあるのだろう。だから、それで傷つく前に身を守ろうとするのか?
それとも、真雪の言葉には岬の想像よりも深い理由があるのだろうか?疑問は多々あったが、それを聞くのは憚られた。
でも・・・こういうことを言うべきなのだろうか?そう思ったけれど、自然に口が動いた。




「でも、俺は真雪くんのほうが好きだけどな」



理由は解らないけれども、なんとなくそう思う岬。
だが、言って失敗かと思った。
いや、別に岬には後ろめたいものはないのだけれども、よくよく考えればニュアンスの受け取り方によっては真雪が聞いて嬉しいものでないことも確かだ。
せっかく口を聞いてくれたのに・・・心の中で大泣きする岬。






だが、真雪の反応は想像していたのと、全く違った。ほんの少し泣きそうな顔になって『そう』とだけ言った・・・。





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「弟を口説かないでほしいな」


図書館にいくらしく、真雪が教室を後にしたのと同じタイミングで柚月が入ってきた。
何か用があって迎えに来たのだろう。だが、真雪がいなかったためか、それとも岬の言動が不快だったのか、柚月は険しい表情をしていた。


「口説くって・・・」

別にそういう意味合いがあったわけではない。確かに言葉そのものは際どいが、真雪と友達になりたかっただけだ。
それなのになぜ彼は口出しをするのだろう?そんな不信感からか、岬の口調も乱暴なものとなる。


「別にあなたには関係ないじゃないですか!」

友達になるのに、家族の意思は別に必要ではないだろう。これは当人達の問題である。
真雪が拒絶するのならまだしも、柚月に言われる筋愛はない。
もちろん、柚月を敵に回してはいけないということは知っていたが、どうしても言わずにはいられなかった。
だが、そんな暴言に、クラス中が静まり返る。間宮が止めに入ろうとするけれど、それを無視して岬は続ける。


「あんたがそうだから真雪くんに友達が・・・」



「どうしてそう言い切ることが出来る?」



返ってきたのは、魂すらも凍てつかせるほどの冷たい声。
暗闇が覆ってくるようで、恐いと思った。
そして、柚月を敵に回してはいけない本当の理由を知る。
決して『家』だけではない。
普段は上品に振舞っているが、本当に潰すときは徹底する男だ・・・間宮もそれを知っていて忠告したのだろう。




「え・・・」



「お前は真雪の何を知っているんだ?」



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