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何を・・・岬に答えることは、できなかった。
柚月の言うとおり、岬は真雪のことは何も知らないのかもしれない。
もちろん、柚月に比べれば、岬が真雪とすごした時間はほんの微々たるものだから、柚月がそう思うのは当然のことだろう。真雪のことはこれから知っていくのかもしれないが、ただの好奇心だとは思われたくない。
だけど、柚月の言葉に言い返す材料を持っていなくて・・・黙った岬に一息ついて柚月は括った。


「場所が悪い。変えよう。文句はないな?」

クラス一同、はいと言った・・・。





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「恐がらせて悪かった」

と、いつの間にか柚月はいつもの彼に戻っていた。さっきの威圧感はどこに行ったのだろう?そう思うほどだった。

「いえ、俺のほうこそ、あんなこと言っちゃって・・・」

柚月の謝罪で、岬も冷静になった。
生徒会長の要職にある彼が人目をはばからずにあそこまで言うということは、柚月はそれだけ真雪のことを大切にしているのかもしれない。
ただ弟に湧く虫だからということはないのだろう。そう思うと、柚月に抱いていた怒りは自然と収まることになる。
ごめんなさい、そう言おうとしたが、軽く首を振られ、止められる。そして、突然、髪に触れられ、どぎまぎしてしまう。




「岬くんといったかい?君は素直でいい子だな」



「素直だなんて・・・」



年上からそう言われるのは、むずがゆい気分だった。

「いや、あの子と話せる君が羨ましいよ」

「別に会話というのをしたわけじゃ・・・」

「俺にはね、そこまで話してくれないんだよ・・・」

柚月は先ほどまでとは違ってすごく哀しそうだった。

「ねぇ、岬くん・・・いや、瀬古くん、君を信じていいのかい?」

「信じるって・・・何を・・・」

ただ真雪と友達になるためだけに、どうして柚月がでしゃばるのだろうか。
そう思ったが、沈痛な面持ちをしている柚月を前に、口に出すことはできなかった。


「てか、それ以前に九条先輩に何の関係が・・・?」

「なかったら・・・どれだけいいだろうな・・・」

遠くを見つめながら、誰に聞かすつもりもなく、そう呟いた。
二人の関係を知らない岬にその真意は解らなかったけれど、ただ一つ、彼が決して真雪を嫌っているわけではないということは伝わってきた。むしろ・・・?


「君は、真雪と友達になりたいんだろう?」

「は、はい」

「そう・・・。じゃ、俺は君に賭けてみることにするよ。真雪を頼む」

そう言って柚月はためらうことなく頭を下げるので、岬のほうも慌ててしまう。
年上に頭を下げられると、調子が狂う。まして、いつもは堂々としている柚月に頭を下げられるなど・・・。


「そ、そんな、頭を上げてください!」

しかし、漠然と解った。敵に回してはいけないと周りには言われてはいるが、威圧感だけでは人を従わせることはできない。この潔い態度が人を惹きつけて止まないのだろう。この人は信頼できる、そう思う。

「・・・済まないな。いろいろと苦労すると思うけど、頼むよ・・・」

その言葉に妙な引っ掛かりを感じつつも、大人しく頷いた・・・。





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その時は疑問に思っていた『苦労』の言葉が、こうも簡単に理解できるとは思わなかった。
柚月とのやり取りについては、あまりにも不自然なものではあったが、彼自身が上手くフォローしておいたらしく何もお咎めはなかった。
彼の影響力の大きさに感謝するが、困ったことに、真雪の機嫌のほうが悪くなってしまった。お昼休みであっても、口を聞いてくれない。


「俺、嫌われてるんですかね」

本人に聞くことはできないため真雪の中学時代を知っているクラスメートに聞いても、解らないとしか返ってこないので、どうしても、柚月のところに相談に行かざるを得なかった。
毎度のように行っているので迷惑なのかもしれないけれど、柚月は嫌な顔一つせずに、相談に乗ってくれる。
そんなときの柚月のほうが少しだけ線が柔らかく、岬は気に入っていた。生徒会長時の柚月は、少し冷たいような気がする。






「いや、そんなことはないだろう。俺が好きなんだ。真雪が嫌うはずがない」



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