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それが本気ではないとわかってはいながらも、優しげに言われたせいで一瞬心臓が跳ね上がってしまった。
だが、相手は男であるため、慌てて息を落ちつかせる。
妙に甘ったるい空気が流れていて、下手に意識すると、厄介なことになりそうだった。
「先輩、俺を口説かんでください」
そんな空気をぶち壊すためにわざと冗談交じりに返したが、柚月はその笑みを崩さなかった。
今まで柚月が笑うというイメージはあまりなかったし、笑っていたとしても『振る舞い』と形容するのにふさわしい機械的な笑みしか見ていなかったけれども、心の底から笑うとこんなに格好いいんだ・・・と、場違いなことを思う。
相手は男なのだが・・・優れている者に対してカッコいいと思ってしまうのは、仕方のないことだろう。
「本気で口説いてもいいよ?君が望むなら」
「いや、望んでないから」
即答で断った。やんわりとしなかったのでちょっと失礼かなとは思ったけれど、先方は気を害してはいなかったみたいである。
もともと本気ではなかったのだろう。
「そう。それを聞いて安心したよ。俺たちが結びつけば、真雪に嫌われる。それだけはあってほしくないからな」
自分から言っておいて安心するとは何事か、それは突っ込まないでおいた。
『多分俺たちが話しているから拗ねているんだと思う』そう答える柚月には、兄としての優しさと、ほんの少し、それを越える何かがあったのだ。
それに比べれば先ほどの柚月の言葉は非常に軽いように思えた。
「先輩、聞いていいですか?」
「言っておくけど、世間一般ではどうも俺みたいなちょっと冷たそうな顔の奴は受だと見られがちだが、俺は攻だ。兄さんはああ見えて結構Sの気もあるし・・・」
「そっちは別にいいです。その・・・もしかして・・・」
「はは、ばれた?実は俺、君を抱きたいんだ」
あっさりと爆弾発言をしたけれど・・・。
「でも、先輩、俺、男だよ?」
「俺はそんな君を好きになったんだよ・・・」
「うん。嬉しい・・・じゃない!」
ノリ過ぎた自分を責める。こういうときノリの良すぎる自分を恨む。
おそらく柚月は岬が何を考えているのかに気づいて、わざと変な話をして岬を誘導し、本題から外れようとしているのだ。
ある線から決して岬が入ってこないように・・・。
「先輩は真雪くんのことを・・・」
「愛してるけど、それがどうした?」
即答したので、これ以上突っ込むことは出来なかった。
彼は決して岬の質問を無視したわけではない。
真意はともかく、柚月は岬の質問にしっかり答えたのだ。
深入りするな・・・やはり岬には柚月がそう言っているようにも思えたが、柚月が言いたがらない以上は、聞くことはできなかった。
「あぁでも俺にとっては大切な弟だから。そうだ、今日暇か?」
「え、暇といえば暇ですけど・・・」
「良ければ遊びに来るといい」
いきなりの話だった。どこをどうしたらその話が出てくるのか、理解に苦しんだ。
先ほどから柚月のペースに乗せられている気もするが、断ったときのことを考えて、仕方なくそれにしたがった・・・。
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