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「せっかく友達と遊びに来たのに、悪かったね」


応接間に通され、薫にいきなり謝られた。
九条家の人間は謝るのが得意であるみたい・・・岬はそんな場違いなことを思うが、謝ることを知っているということは、そういう教育を受けているのだろう。
トップとはなかなか謝らないもので、大抵は下のものが後始末をすることになる。九条という家に好感を抱いた。


「いえ・・・そんな・・・」

と、慌ててしまうと、薫はくすりと笑みを漏らす。ふと、自分が名乗っていないことに気づき、慌てて自己紹介する

「あ、忘れてました。俺、瀬古岬っていいます。真雪くんとは同じクラスで・・・、柚月先輩とはついでに知り合ったという感じで・・・」

「律儀な子だね、君は。なるほど、二人が気に入ったのも、分かる気がする。この僕が気に入ったんだ。あの子達の目に狂いはないね」

そう言えば、柚月のほうも似たようなことを言っていた。過剰評価されているような気がしないでもない。



「それより、君はあの子たちに疑問を感じるかい?」



むずがゆい気持ちになっていると、話題を変えられる。
『軽い気持ちで聞いてますよ』と言っているように見えるが、目は笑っていない。
これが本題なのだろうが、
薫の質問の意図が分からなかった。なぜ、初対面の男にそれを聞くのだろうか?

そして、二人から遠ざけてする話題であるのだろうか。

もちろん真雪と柚月のことについては疑問ばかりで、
会って間もないからという理由では納得することができない。
知らないことばかりでしかないが、真意が読めない以上、下手な答え方をすると、数倍にして返されそうな気もする。
だが、いいえと答えるには不自然が多すぎた。そう答えて、なぜ?と聞かれたら、答えることはできないだろう。
それなら・・・何か言われる覚悟で思いのままを口にする。




「何か成り行きでここにいるけど、疑問というか・・・分からないことだらけで、実は俺が何を知っていて、何を知らないか・・・それすらもわからないんですよね。
真雪くんがどうして・・・ってのもあるし、柚月先輩との関係も・・・。
それに、今日薫さんを見てますます不思議に思ったんですけど・・・なんと言うか・・・」


そこまで言ってから、口をつぐむ。いくら疑問に思うとは言え、ここまで隠さずに言うのは、彼らにとって失礼でもあろう。
だが、そんな岬の狼狽とは裏腹に、薫は暖かく、そして、心底嬉しそうに微笑んだ。


「正直な子だね、君は」

「す、すいません。俺、失礼なこと」

慌てて謝ったが、気を害してはいなかったようだ。

「いいよ。あの子達と接するのなら、それだけの疑問があって当然だ。むしろ、疑問もってくれて安心したよ。
真雪を、まぁ、気が向いたら柚月も・・・救ってやってほしいんだ」


「救う・・・?」

彼ら兄弟と仲良くしてやってほしい、という意味合いであることは理解できるのだが、そういう会話に出てくるには、不自然な単語のような気がするのは気のせいだろうか・・・。岬は何も言わずに薫が続けるのを待った。

「あの子は心を閉ざしている。特に、男相手には全くといってもいいほど、開かない」

「でも、薫さんには・・・」

普通に感情を見せていたと思う・・・と言おうとしたところで、心当たりが浮かんだ。
それは、彼がオカマをやっているからだ。真実や内面はともかく、ぱっと見は中性的な人だから真雪もあまり『男』を意識せずにいられるのだろう。
そして、『男』である柚月を警戒しているのも当然といえば当然だ。


「昔はあれでも素直な子だったんだけどね。気がついたら兄弟仲もギクシャクしてしまった。
その理由は僕は知らない。というか、知らないことになっているから、聞かないでほしい。
柚月が自分のせいだと思い込んで過保護になるから、真雪も責任感じちゃって・・・その悪循環。
信じられないだろうけど、本当に仲がよかったんだよ。
かわいい真雪には懐いてほしかったのに、僕じゃなくて柚月のほうに懐こうとするんだ。
本当に・・・
僕を除け者にしてラブラブでね・・・。想像できないだろう?あの完璧くんがものすごく甘い顔をしちゃってねぇ。
からかうのが楽しかった・・・。だから、あの子たちを見てると辛いんだよね」


それから数十分そのラブラブぶりとやらを話され、聞き終わるころにはすっかり日も暮れていた。
お腹一杯の内容ではあったが、彼が弟達を心底大切にしていることだけはしっかりと伝わってきた。


「あぁ、こんな時間。悪かったね。そろそろ君を返してあげないと親御さんに心配をかけてしまう。柚月、いるんだろう?」

え?ドアのほうを見やると、人の気配がする。がちゃりと開けて入ってきたのは、柚月だった。
その慌てぶりからすると、盗み聞きをしていたらしい。


「兄さん、話は済んだんですか?」

「はいはい。そんな目で睨まなくてもいいでしょう。僕は君の将来のパートナーと親睦を深める必要があるんだよ」

何を言ってるんだ?岬は突っ込みを入れようとしたものの、柚月が気まずそうに沈黙しておいたので、やめておいた。
ただでさえ薫の言葉に困っているのだ。これ以上柚月を困らせるのは、悪い気がした。


「とりあえず、送ってやるといい。僕が送ってもいいんだけど、柚月のほうがいいんじゃないかな?」

「いえ、そんな。一人で帰れますって」

「初めて来たんだ。帰り道を覚えてほしくてね」

そんな薫に、また来てもいいといわれたような気がして、大人しく彼の好意に甘えることにしたのだった。



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