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苦笑しながら柚月はそれを認める。岬の想像は、事実だった。
つまり、決してしてはいけない質問だった。改めて岬はその質問をしたことを後悔する。
もしそうだと知っていたら、決して聞きはしなかった・・・と思っても遅い。
しっかりと自分は質問し、柚月もごまかすような真似をせずに、しっかりと答えてしまったのだ。
「いいよ、そんな顔しなくて。事実はどうあっても変えることが出来ないから・・・。
真雪は父が外につくった子なんだよ。まぁ、うちみたいな家はどうしても政略結婚が多くてね、父もそのクチだったらしい」
「ということは・・・その・・・」
柚月達は望まれずに生まれてきた、そういうことなのだろうか?それとも、真雪がたまたまできてしまった子供なのか。
だから、兄弟仲が悪いのだろうか?さすがに岬にそこまで聞く度胸はなかった。
「さぁ?俺にはその真相は分からない。とにかく、父にも本気で愛した人がいたらしい。
それが、たまたま母の親友だったってワケ。あの時の母の怒りぶりはなんと言うか・・・地獄だったな。
でも、結局真雪のお母さんが病気ということもあって、渋々とだけど」
「じゃぁ・・・おばさんとは・・・」
「今はそうでもないよ?旦那が寝取られたのが嫌なのもあったし、親友に手を出されたのも嫌だったようで、色々あったみたいだ・・・まぁ、不倫だから、そればっかりは仕方ないかな。
でも、何だかんだ言って、親友の忘れ形見は可愛いみたい。相当母も真雪のお母さんのことは大切にしていたんだろうな。
肝心の実の父よりも、可愛がってる部分もある。まぁ、仕事が忙しくて中々会う暇がないんだけど」
その言葉に岬は安心する。決して真雪が家で孤立しているということはなかったから。
だが、それならどうして・・・という疑問は残る。
「でも、俺のことは嫌いみたいだな。まぁ、仕方ないんだけどね。
もともと異母兄弟が仲良くなれるとは思えないし、急に兄ができても、兄だとは思えないだろう?
それに・・・俺たちの関係は少し・・・わだかまりがあるから」
寂しそうにため息をつく柚月。そんな彼に、胸が痛む岬。
「でも、真雪には、もっと外に目を向けてほしいんだ。男が嫌いなのは仕方がない。それは個人の生き方だ。本人が嫌がるのに、俺が必要以上に干渉するわけにもいかないだろう。
でも、君みたいにいい男もいるし、すべてが真雪の敵なわけではない。本当に真雪のことを友達だと思ってくれている人だって、いるはずだ。
それに気づかずに狭い世界で生きていくのは、とても寂しいことだろう?」
いい終えてから、岬は柚月をぎゅっと抱きしめた。
「お、おい・・・何するんだ・・・」
「何か先輩が寂しそうだったから。俺に抱きしめられるのは・・・嫌ですか・・・?」
表面上は余裕たっぷりという風につくろってはいたが、実のところはとんでもないことをしたという自覚があり、岬は心の中で相当混乱していた。
本来、岬には男を抱きしめる趣味はない。高校が元男子校で、確かに一部にはそういう空気もなくはないのだが、そんなことは岬には関係ない。
ただのスキンシップや冗談で抱きつくのならまだしも、ここでそんなことが出来るほど軽い空気ではなかった。
しかし、引っ込みがつかなくなったのも、事実だった。いつもの『先輩』と違う、『完璧』でない柚月を放っておくことが出来なかった。
自分ひとりで何かを抱えているようで、しかもその辛さを辛さだとは思わず、当然のことであると思っているようで、痛々しいものがあった。
少しでも楽になってほしかった。その苦しみを、少しでも岬に分けてほしかった。嫌だと言われたらどうしようとも思うけれども。
「困ったなぁ・・・」
と言われてしまい、自分でも信じることが出来ないほど、心に北風が吹いてくるのを感じた。
そういわれるのが普通なのに、普通に冗談と言って柚月を解放すればいいだけのはずなのに、なぜ、ここまで暗い気持ちになるのだろうか。どうして落ち込まなければいけないのだろうか。
だが、そんな気持ちが伝わってきたらしい。柚月は苦笑する。
「嫌じゃない。どころか、嬉しいんだけどな」
軽く笑い、体制を入れ替える。気づけば岬は柚月の腕の中に納まっていた。
あれ?抱きしめられてる?それなら自分の立場はどうなるんだ?漠然とそう思ったが、この後の言葉のおかげでそんな『些細な』ことは一気に吹き飛ぶことになる・・・。
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