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「僕は別に兄さんが嫌いってわけではないよ。それどころか、自分でもおかしいと思うくらい、好きなんだと思う。
あ、兄さんが瀬古くんを好きというのとは意味合いが違うよ?でも・・・正直どう話したらいいか分からないんだ」


「どうして?先輩は真雪くんを大切に・・・」

「・・・どうだろうね。ああみえて本当はとても優しい人だけど」

言葉をにごす真雪。そこには明らかに不自然さがあったけれども、岬にそれを追求することが出来なかった。





「でも・・・あれから・・・だね。明らかに何かおかしくなったのは・・・。でも、ここでするような話じゃないね」






「あれは中学3年だったかな。その時は兄さんも普通に友達を連れてきてたんだ。
普通に僕と遊んだこともあるし
・・・そういう人がいる間は僕も兄さんと話すことが出来たし・・・
でも、そのうちの一人が僕に・・・その・・・つまり・・・イタズラって言うのかな・・・」


その言葉で真雪が男を毛嫌いする理由が分かった。そして、何故あのときに柚月が干渉したのかも・・・。
もう真相はわかったのだ、これ以上言ってもらう必要はなかった。岬は真雪に辛い想いをしてほしくなかった。
心配して止めようとする岬だったが、意に反して真雪がやわらかく首を振り、ゆっくりと話を続ける。


「いいよ。いい加減僕も前を向かなければいけないから、これはいい機会なのかもしれない。
とにかく、されてるのを兄さんが見つけちゃって、大激怒。それから兄さんは家に友達を連れてこなくなったんだ。


その時からあの人は僕に気を遣うようになった。自分が悪いと思い込んでるんだ。
別に兄さんは何も悪くないのに。悪いのは、僕にあんなことをした人なのに・・・。
何度言っても『自分が悪い』って。
僕はそんな兄さんを見るのが、辛くなったんだ。だから、時々当たっちゃって。すると兄さんはそれで自分を責めるんだ」


うわさで流れているほど柚月と真雪は、不仲でもなんでもなかった。
どちら
相手のことを思い遣りすぎて、距離のとり方が分からなくなっただけなのだろう
だが、それはそれで辛かった。お互い大切に思っているのに、ちょっとした誤解ですれ違うのは、哀しすぎる。
もう少し一歩進めば・・・と思うのだが、きっかけがつかめなければどうしようもないだろう。
残念ながら岬は、自分の力でどうこうできるとは思わなかった。


「大丈夫だよ。真雪くんなら柚月先輩と仲直りできるよ」

だが、岬は悲観はしなかった。前を向いて歩く決意をした真雪なら、自然と二人にふさわしい距離に戻ることが出来るだろう。
かねてから心配していた岬は、安堵する。やはり兄弟は、仲のよいほうがいい。ギクシャクしたのを見るのは辛い。


「そうかな?僕に出来るかな?ちょっと自信ないけど・・・もしそうだったら・・・やっぱり瀬古くんのおかげなのかな?」

「俺の・・・?」

「うん。あのことがあったから、結構人間不信だったんだ。男となると、皆同じように見えて、どうしても近づくことが出来なかったんだ・・・」

そんなことを言う真雪に背筋が震える岬。知らなかったこととは言え、自分の行いがどれだけ真雪を不快にさせたことだろう・・・そう思うと、心底から申し訳ない気持ちになる。
もし
・・・たとえ仮定が無意味であったとしても・・・の事実を知っていれば、もう少し距離を置こうとしたのかもしれない。


「他の人も、兄さんが恐いのか、あまり話しかけることもなくて。
でも、瀬古くんは違った。ほとんど相手にされないのにめげなくて・・・ほだされたというのかな。
僕も全ての男が悪いわけじゃないという当たり前のことをやっと認めることが出来て。
とにかく、兄さんが瀬古くんを好きになった気持ち、分かるんだ」




穏やかな、本当に心の底からの笑みを見せられ、岬は自然と自分の心が波立つのを感じる。
雪の中から新芽が出る・・・そんな印象を真雪の中に持った。
だから、一瞬、抱きしめてしまおうかと思った。しかし、そんなことをするわけにはいかなかった。辛うじてそれをとどめ、自分を抑えた。
これから一歩踏み出そうという段階なので、まだ真雪には辛いことかもしれないし、自分がそんな感情を持ってはいけないような気がした。
そんな複雑すぎる心のうちを
ごまかしたく、岬は話題を変えることにした。


「俺って・・・そんなたいそうな男じゃないよ。好きって言ってくれた先輩を振っちゃってさ。俺、あの人とどう顔あわせればいいかわからないよ」

「あ・・・振ったんだ・・・?」

きょとんとする真雪。

「振ってなかったら悩んでないよ・・・」

「いや、てっきりまだ返事出してないだけかと・・・」

「しっかり振ってしまいました。俺、先輩、傷つけちゃったかも・・・」

はぁ・・・と、岬は盛大なため息をつく。人と付き合うのは自分の勝手なはずなのに、岬のしたことは間違えてはいないはずなのに、何故か後味が悪い。
しかも、
傷ついた柚月の顔が、未だに彼の顔から離れてくれない。
しかし、そんな重苦しい岬とは裏腹に、真雪のほうは比較的明るい顔をしていた。


「大丈夫だと思う。兄さんがそんなことで諦めるとは思えない」



「うそ・・・」



「告白したんならね。今までは兄さんに告白した人のほうが多いけど、兄さんが自分で告白したのなら、多分それだけの決意があるんだと思う。
一時傷ついていても、あの人結構しぶといから・・・覚悟したほうがいいかもね。たぶん逃げられないと思う。僕もあの人のああいうとこ羨ましいと思うし」




くすくすと笑う。何故かほっとした岬がそこにいた・・・。



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