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岬にとって、真雪が外を向くようになったのは嬉しい反面、複雑な部分もあった。
内気ではあるが、そこまで引きこもってはいなかったようで、笑うことも多くなったし、自分からは話しにいかないものの、周りが声をかければ返すようにもなった。
そのはにかんだ笑顔がかわいいのだが、そんな彼に惹かれる人も、多くなって困る。
最近真雪の評判が高く、けん制するのに苦労している。身勝手だが、真雪が自分の方だけを向いていたときのほうがよかった・・・とも思う。
かといって柚月に相談しようにも、気まずくて会うことが出来ない。
しかも、いつもはそれなりに真雪の顔を見に来ていたのだが、ここ最近は1週間以上顔を見せていない。




「や、久しぶりだな」



と、目の前に姿をあらわしたときは、岬は嬉しさのあまり、本気で柚月に抱きつこうかと思った。
今ならどれだけ抱きついても平気・・・のような気がした。それだけ柚月が会いに来てくれたのは嬉しかった。
『俺、乙女か!』と心の中では悶絶したけれども・・・。


「真雪くんなら・・・」

図書館にいる、そう言おうとした。今更柚月は岬のことを相手にするつもりはないだろう・・・そう思ったのだが。

「今日は岬に用があるんだけどな」

「用って・・・別にないでしょう」

やや冷たく返す。半分拗ねも入っていた。いつも見ていた顔を見ないのは、想像以上にペースが狂うものだった。
それに気づいている自分がいたから、なおさらだった。柚月に気づかれたくなかった。
なぜ柚月に一喜一憂しなければならないのだろう。柚月は先輩で、岬はただの後輩・・・それだけではないのか。


「癒されに・・・かな。本当はもっと早く会いに来たかったんだけどな・・・ちょっと忙しくて」

「生徒会・・・ですか?」

返ってきたのは、岬が想像していた答えではなかった。

「いや?それそのものってより・・・ちょっと打つ手を考えてたって感じかも」

「何の手ですか・・・」

不穏そうな話に、岬は苦笑する。

「あぁ、俺を失脚させたがる輩がいるみたいでね」

軽く笑いながら言われたので、岬も呆気に取られた。話の重さと柚月の表情がアンバランスだった。

「何処にもそういう輩はいるけど・・・全く、おかげで岬に会う暇がなかった・・・」

と、急に不機嫌そうな顔を見せる。その顔を見せるタイミングは違うのではなかろうか・・・と思ったが、規格外の柚月に聞いても仕方のないことだろう。柚月であれば、どんなことがあってもおかしくはない。

「そんな、別に俺に会わないからって、そこまで機嫌悪くする必要ないでしょう」

「お前、自分の魅力、分かってないな?」

「まぁ、そりゃ、それなりにもてることは自覚してますけど・・・」

と、わざと茶化す岬だが、柚月は優しく岬の髪に触れる。



「そうだな。岬は本当にモテる。可愛い子から結構何かもらうんだろう?」



いたずらっ子めいた口調で問われ、岬は閉口する。
本人はあまり自分の顔には頓着していないのだが、それは紛れもない事実で、可愛い系やマスコットになりそうな子から、いろいろ告白されている。
一応彼はノーマルなので、可愛い(男の)子から告白されても嬉しいわけではない。
女の子から告白してくればとも思うのだが・・・なかなか現実は甘くない。
柚月と一緒にいるのが多いせいか、どうしても男から告られるほうが多い。


「でも、先輩みたいな物好きはいないですけどね」

振ってもまとわりつくような人間は、中々いない。大抵は距離を置いてしまい、気がつけば視界からいなくなっている。
皮肉なことに目の前の、断るのに一番の苦労を要した柚月だけが、以前と同じように接してくれている。


「そうか?俺は岬には感謝してるんだよ?おかげでやっと真雪が笑ってくれた・・・」

心底嬉しそうに言われ、彼らの仲も修復できそうであることを察する。
それは言ってしまえば真雪が前へ進むことを決意していたからこそ出来たことなのだが、それでも自分のおかげと言われて嬉しくないはずがない。ただ、少し複雑ではあるが・・・。



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