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「そんな・・・俺こそ・・・その・・・」
柚月の想いには応えられないものの、側にいてくれることは、岬にとって嬉しいことでもあった。
柚月が心惑わす存在であっても、隣にいると、心地が良い。しかし、柚月の想いを知っていて、利用している部分もあるため、それを言うのは後ろめたいものがあった。
よって、強引に話題を転換する。
「そういえば・・・真雪くんって可愛いですね」
柚月の顔が、一瞬だけ険しくなったが、それには気づかぬ振りをした。むずがゆい空気をぶち壊すほうが大切だった。
「あぁ、とても可愛いだろう?最近はずっと笑っていなかったのが、少しだけど笑顔を見せるようになったんだ。
天使のようだな、あれは、うん。悪い虫がつかないかと心配なのだが・・・毎日けん制していると鬱陶しがられそうだし・・・」
柚月もそんな岬に気づいたのか、あえてブラコンな兄を演じているようにも見えた。
「悪い虫って、ひょっとして・・・俺?」
「いや、岬以外の害虫だ。困ったことに、内気な真雪は格好のターゲットなんだよ・・・」
『岬以外』のという言葉の強いアクセントに柚月の不機嫌さが隠されている。相当根に持っているのだろう。
だが・・・以前真雪から柚月の友達にいたずらされたという話を聞いていた。
よって、柚月の危惧は根拠があるものなのだ。
そしておそらく、真雪は岬が知る以外に何度かそうされそうになったのだろう。
「あ、瀬古、いたいた」
と、慌てた様子で間宮が来た。
「おい、俺らの時間を邪魔するな」
と、不機嫌なのは柚月。だが、間宮のほうも負けてはいない・・・というよりは、間宮も引き下がれないほど重要な事態なのかもしれない。
彼は引き際をわきまえている男だ。相手が害を与えないという確証がなければ、むやみやたらに首を突っ込んだりはしない。
「あ、九条先輩、こんにちは。真雪くん、戻ってないですか?」
「いや?まだ。図書館にいるんじゃないのか?」
「それが・・・生徒手帳が落ちてたから、渡そうと探したんだけど・・・」
見つからなくて・・・その言葉に、柚月の眼光が鋭いものとなる。
「その話、聞かせてくれないか?」
狼狽していて要領の得ない間宮の説明をまとめると、図書館にいたのは事実らしい。だが、そこから足取りが途絶えてしまったようだ。
「よりにもよって・・・今日か・・・」
苦々しく吐き捨てる柚月。
「今日が・・・どうしたんですか?」
「奴さんが想像以上に早く動いたようだ・・・」
『生徒会長の失脚』、『柚月と真雪は兄弟である』、『真雪はそっちの対象にされやすい』・・・岬には三つのキーワードが浮かんだ。
完璧で隙の無い生徒会長本人を攻略するよりは、ガードの甘くなった真雪を攻略したほうが戦略的にベターだ。
そして・・・その方が確実に柚月にダメージを与えることが出来る。
仮にその邪推が真実であれば、個人的に恨みを持つ人間である可能性が高くなる。
「心当たりは・・・」
「あぁ。ありすぎて困る。それよりも、真雪が何処にいるか、だ」
さらりと恐ろしいことを言ったが、問題は、犯人を割り出せるか、そして、真雪がどこにいるかだった。
「おーい、瀬古、こんなものが・・・」
机を探していた間宮が、紙切れを発見した。それには『13:00に体育館倉庫。もし来なければ、お前ら兄弟の関係をばらす』とあった。
「ベタすぎるな・・・くそっ」
と、怒りのあまり机を叩きつける柚月に、周囲が震え上がる。
「ちょっと行ってくる」
「俺も行きます!」
と、慌てて岬も席を立つ。真雪を守ってやりたい・・・そう思った。
「いや、岬には危険だ」
「一人より二人のほうが心強いでしょう?」
と言われ、柚月も渋々とだが、首をたてに振った。
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