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「ここで・・・間違いないんですか?」
だが、岬たちが着いたのは、体育館倉庫ではなく、人気のない柔剣道場だった。
柚月が誰かと電話でやり取りしながらここへつれてきたのだ。
「あぁ、あれは陽動だ。そんなストレートにことを運ぶはずがない。
俺があそこに行っている間に、皆川はこっちで俺の弱みを握るつもりだろう。
これは能勢が連中のダチを締め上げて聞いた話だから、間違いはない。
それに・・・万が一のためにも、そっちには配置してある」
にやりと、肉食獣のような笑みを浮かべる柚月に、岬は身震いをする。
ちなみに、聞くところによると皆川というのは、かつて真雪にいたずらをした奴で、能勢は、副会長で、柚月の腹心であるらしい。
「いいか、覚悟はしておけ?」
自分に聞かせるようにそう言ってゆっくりと柚月はドアを開ける。中を見て、岬の頭が沸騰する。
目の前には複数の年上であろう男と、ワイシャツを脱がされかけて泣きじゃくっている真雪がいた。
「九条、お前って・・・本当に馬鹿なやつだな。あの紙を信じてれば、少なくとも現場を見ることはなかったのに・・・」
「皆川・・・お前が分かりやすい奴で助かったよ。今頃、向こうには能勢が行ってる。逃げ道は・・・ないよ?」
柚月は冷静そうには振舞っているものの、わずかだが震えている。大事な弟に手を出されかけているのに逆上しないのが、逆に無理やり怒りを押さえつけているように見え、岬は彼が本気で怒っていることを察する。
「逃げ道?これを見てもか?」
真雪を指差す皆川。今すぐ犯せると・・・自信たっぷりのようだった。
岬は無我夢中で真雪を救いに行こうとしたが、柚月に左腕を出され、止められた。静だけれども、妙に気迫があるので、動くことが出来なかった。
「随分と余裕綽々だな」
柚月にあわてた様子はなかった。ははは、笑いながら右腕を動かす。気がつけば皆川のすぐ脇の壁に何かが刺さっていた。
「う〜ん・・・はずしたか」
よく見るとそれは何故かクナイで、更によく見ると、うっすらと皆川の頬に赤い線が走っていた。これは、明らかにわざとはずしたものだった。
「先輩、わざとですか?」
どうせなら的中させてもよかったのに・・・呆れ顔で岬が聞いてみると、柚月は逆に聞き返してくる。
「神聖な道場を血で汚すわけにはいかないだろう?」
その言葉に、雑魚扱いされた男達の興奮が頂点に達したようだ。真雪のことは忘れ、一気に柚月に襲い掛かる。
「岬・・・真雪を守れ」
「でも、先輩・・・」
一人で何人もの男を相手にしようとする柚月を心配し、岬も手助けしようとしたが、それは止められた。
「いいから!俺は平気だ。でも、真雪が・・・わかったな?」
低い声で言われ、慌てて真雪の元に駆け寄る。幸い、みな柚月に気を取られてしまい、邪魔は入らなかった。
「真雪くん・・・大丈夫・・・?」
すると彼は力なく首を縦に振る。
「大丈夫・・・脱がされた・・・だけだから・・・」
『だけ』という言葉に、岬の胸が痛む。そう思い込むことで真雪は自分を守ろうとしているのだ。
だからとっさに岬は抱きしめてしまった。放っておくことが出来なかった。
柚月も心配ではあるが、彼は自分で何とかするだろう。柚月はそれだけのことをできる男だ。
だが、真雪は誰か側にいてやらなければならない。
(先輩・・・ごめんなさい)
最初は自分を守るためについた嘘だったが、次第にそうでなくなった。自分の意思で、真雪のそばについてやりたかった・・・。
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「お前も、損な奴だな・・・。二人きりにさせて、いいのか?」
と、能勢が陽動部隊を全員締め上げてから、やってきた。なお、足元には骸の山がたくさんある。結局、柚月一人でのしてしまったのだ。
「多分、真雪くんより先に見ていたんだろう?」
「何。俺は負ける戦はしないつもりだよ」
はははと、皆川の上に座りながら笑っている柚月には、卑屈さは見えなかった・・・。
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