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人気のない屋上で、岬は物思いにふける。柚月の前でそう言ってしまったことを後悔していた。
そのときは極力気遣ったつもりでいたが、それは結論を先延ばしにしていただけで、本質は何も変わるわけではなかったのだ。逆に、柚月を傷つけてしまう結論にしかならないことを悟っていて、気は重くなる一方だった。
そして、柚月もそんな岬に気づいていたのだろう。答を急がせなかったから、さらに岬の良心が刺激されることとなる・・・。
逆にその場で答を求めてくれたほうが岬にとっては楽だったのかもしれない。
「瀬古くん・・・どうしたの?」
心配そうに真雪が声をかけてくる。朝から岬の様子に気づいていたのだろうか。屋上までおいかけてきた。
最初は相手にもしてくれなかったあの真雪が追いかけてくるほど、深刻な顔をしていたのだろう。
ごまかそうと思ったけれど、さすがに岬のほうも限界が近づいていて、そのような余裕などあるはずがなかった。
それに、いずれ向き合わなければならない問題だったため、嫌われることを覚悟した。
「俺が真雪くんを好きだったら・・・どうする?」
覚悟したつもりではあったが・・・まだ仕切れていない部分があったようだ。
わざとらしく付け加え、はっきり好きだということは、できなかった。
だが過去に真雪や柚月の人生を変えてしまうような経験があったため、岬の口調は弱々しいのも仕方のないことなのかもしれない。
そんな告白に真雪は嫌がるかと思ったが、すごく悲しそうな顔をしていた。
「それは・・・冗談・・・だよね・・・?」
自分を守るためにある人に放った言葉が、そっくり返されることになるとは思わなかった。どんどん岬は心細くなる。
自分の気持ちを否定されるのは、ここまで悲しいことなのだろうか・・・。自分が言われただけでこうなのに、柚月はあの時どれだけつらかったのだろうか。少なくとも、自分よりはるかに辛かったのかもしれない。
「ごめん、冗談じゃないんだ。最初は軽い気持ちだったのかもしれない。友達になりたかったから。
でも・・・知らない間に・・・なんていうか。もちろん、迷惑だってことは分かってる。でも、もしよければ・・・」
冗談だといえばよかったのかもしれない。そうすれば笑って何もなかったことに出来たのだ。
だが、岬がそれをしなかった、いや、出来なかったため、重すぎる沈黙が続いた。岬も、真雪も何も言わなかった。
「瀬古くんの気持ちは嬉しい。でも僕は・・・その・・・」
やっと真雪が口を開いたが、軽くうつむき、口を閉ざした。再び口を開いたかと思えば、また顔をこわばらせて沈黙し、それからまた静寂が続く。何かを躊躇ったみたいだが、やっと意を決したのか、岬の瞳を見つめた。
「君の気持ちには応えられない。僕はやっぱり友達として・・・その・・・ごめん・・・」
口から出たのは、拒絶の言葉だった。この重い空気ならこの答しか思いつかないはずだが、実際に言われてしまうとショックが大きいもので、岬も一気に表情を失う。
そんな岬の表情を見て、傷つけたと思ったのだろう。真雪のほうも泣きそうになって謝ったから、いたたまれなくなって岬も笑って返す。
「何言ってるんだよ。冗談だよ、冗談・・・」
あはは・・・取り繕ったように笑おうとしたけれど、表情が不自然に引きつってしまい、どうしても出来なかった。
それで自分の気持ちを再確認する。やっぱり岬は真雪のことが好きだったのだ。
自分でも気づかないほど好きだったのだ。情けないのかもしれないが、いつものように明るく振舞うことが出来なかった。
「ごめんなさい・・・」
岬の潤んだ目を見て、ますます真雪の頭が低くなる。居たたまれなくなり、岬はその場にいることができなかった・・・。
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