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ただ考えてもどうしようもないことは知っていた。考えてどうにかなるのなら、岬の父親だって最善の選択をしていたはずだ。だが、考えることすら今の岬には出来なかった。それだけ頭の中がごちゃごちゃしていた。

真雪との関係は、ギクシャクしたものとなってしまった。あからさまに避けようとするわけではないのだが、気まずくなってしまって、顔を合わせるようなことがあると、どちらかの視線が外れることが多くなる。
当然、そんな状態で会話が成立するはずもなく、同じクラスであっても会話しない日が多くなってくる。


「瀬古くん、ちょっといい?」

失恋してから数日目、悩みの種の張本人である真雪に呼ばれる。振ってしまったことを申し訳なく思っているらしく、遠慮がちだった。

「真雪くん、何か?」

「うん・・・」

自分で呼んでいたはずなのだが、真雪は口ごもった。それも仕方ないことだろう。
もともと真雪は自分から話すことは少ない。その上岬と気まずくなってしまったのだ。口数が少なくなるのは当然のことだろう。
だが・・・口ごもる理由はその事実ではないようだ。真雪の瞳には、一握りの寂しさが宿っていた。




「瀬古くんは・・・本当に僕のことが好きなのかって・・・」



彼は薫が言ったのと同じことを岬に言った。

「それ・・・どういうこと?」

一人だけが言ったのならまだ勘違いで片付けることが出来るが、二人目がいるのなら、何かしらそう思われるようなことをしていたことになる。それに、真雪が自分を守りたいから言ったとは思えなかった。

「僕は確かに瀬古くんの気持ちには応えられないけど、それでも君がどんな形であっても僕と友達でいたいと思ってくれたのは嬉しかったんだ。だから、僕も瀬古くんのこと、見てたんだよね」

あのような結末にはなってしまったけれど、真雪は真雪で岬のことを見ていてくれた。
岬が友達になろうとすることを受け入れてくれていたのだ。失恋して辛くはあったけれど、それを知って少し癒されるような気がした。


「でも、それで見たくないことも見えちゃうんだよね。瀬古くん、気づいてる?君、いつも兄さんのこと、目で追ってるんだよ?」

「え・・・?」

真雪からでる意外な言葉に、岬は呆然とするしかなかった。

「・・・気づいてないようだ。だから僕なんかに告白するんだね」

「どういうこと・・・」

そんな疑問には苦笑して答えてくれた。

「・・・君にとって本当に大事なのは、僕じゃないってこと。多分瀬古くんは僕を守りたいと思ってくれてるんでしょう?」

鋭い指摘に岬は素直にそうだと言う。今にも消えてしまいそうな少年を守ってやりたいと思うのは冗談でもなんでもなかった。それは失恋した今でも変わることはなかった。
冷静になりつつある今だからこそ、そう言えた。


「でも、君にとって僕の存在はそれでしかない。瀬古くんはそれを理由にして兄さんのことを諦めようと思っているように見えるんだ」



「先輩を・・・諦める・・・?」



「この前だって兄さんを振ったって苦しそうにしてた」

この前と言われて、柚月をはっきり振ってしまったことを思い出す。しかもその前に気持ち悪いといって拒絶したから、二度振ってしまったことになる。

「それは、あの人を傷つけちゃったから・・・」

「瀬古くん、素直になったほうがいいよ。僕は瀬古くんのおかげでだいぶ心が楽になったから、出来ることは何でもしてあげたいと思う。
君が本当に僕のことを・・・その・・・愛してくれてたのなら、僕は君に抱かれることを嫌だと思わないと
・・・思う。
でも・・・君の目には兄さんしか映っていないんだよ。だから兄さんの言動に一喜一憂する・・・」


少しだけ真雪の気持ちが見えたような気がする。悲しそうに目を伏せられ、真雪が、岬が思う以上に自分のことを想ってくれていたことを知った。



「これ以上は・・・言わなくてもわかるよね」



少なくとも、自分が認識している以上に柚月のことを大切だと思っていることはわかったけれども。



「でも・・・俺が先輩のことを好きだとして、今更どうすればいいんだよ・・・」



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