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がらがらと生徒会室のドアを閉めて、岬はため息をつく。
期待していたものの、柚月が追いかけてくれるようなことはなかった・・・その事実に傷つく岬。
立っていることすら辛く、一気に彼はしゃがみこむ。
(見失った・・・な)
後からするのが後悔だとはいうものの、こうなると知っていたら、もっと柚月の事を大切にしていた。
自分に触れようとする手を離すことはなかった。
気づくのが遅かったのだ。柚月もそんな岬に愛想をつかしたのだろう。彼にはふさわしい相手がごまんといるはずだ。
岬に目をかける理由など、どこにもあるはずがない。
「お、少年。そこでどうしたんだ」
しゃがみこんだ岬を覗き込んだのは、能勢だった。
「別に・・・」
だが、岬に答える気力はなかった。こんなところに来たのだから、生徒会室に用があるのだろうが、動く気力すらもなかった。
「そうかそうか。それなら気晴らしにデートといきますか?」
「え・・・でも・・・」
能勢の用事は大丈夫なのだろうか?岬の相手をしている暇はあるのだろうか?そう思うのだが、疑問を口に出す前に能勢が喋る。
「俺は強面だけど実は優しい先輩なんです」
大した用事はなかったらしい。顔に似合わずおどけていたので、素直に好意を受け取ることにした・・・。
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「デートにラーメンというのは嫌かな?」
ラーメン屋で聞かれる。嫌だと言ったら場所を変えてくれるのかと思ったが、岬自身ラーメンは嫌いではなかったので、嫌だと言うつもりはなかった。むしろ、適度に騒がしいこういう空間のほうがほっとする。
「いや、別に嫌じゃないけど・・・先輩は彼女いないの?」
別に岬はデートという言葉を除けば、能勢といっしょにいるのはかまわなかった。それどころか独りで帰るのは辛かったから、好都合だった。
だが、能勢はどうなのだろうか?かつて自分のことを美形と言ったことがあるので、彼女の一人や二人くらいはいるだろう。
それなのに時間を取らせてしまったので、申し訳なく思っていた。もし岬と遭遇していなかったら、生徒会の用事を済ませた後で能勢も遊びに行っていたのかもしれない。
「俺?いたら瀬古なんぞとデートなんかしないって」
「はは、そうっすか・・・」
素材はいいのだから、もっと愛想をよくすれば自然と寄ってくるのでは・・・そう思ったが、指摘はしないでおいた。
誰が何を言ったところで長い間かけて出来上がった性格はそう簡単に変わらないものである。
性格を含めて一個人なのだし、それ以前に、簡単に変われば・・・それで悩むことはないのである。
「デートといえば・・・最近ダーリンとは不仲なのか?」
「ダーリンって・・・」
以前なら苦笑いして返すことが出来たのだが、柚月とは気まずい関係になってしまったため、残念ながらそのような冗談を流す余裕はなかった。ため息をついた岬を、能勢は苦笑しながら眺めた。
「やっぱり夫婦喧嘩か。俺の目に狂いはなかったな。九条もなんか様子が変だったから・・・原因は何だ?まさか九条がゴーカンしたとか・・・」
強引に唇は奪われたことはあるけれど、強姦はされていない。
「なんというか・・・終わったんだなって」
岬は始まりから全てを説明した。柚月が側においておくのだから、柚月側の人間だということは分かっていたが、誰かに話して少しでも楽になりたかった。
「ま、そんなわけで俺は先輩の好意を踏みにじりまくったわけですよ」
「なるほど、そんなことがあったのか・・・」
終始能勢は黙って聞いていた。割り込むような真似はしなかったが、途中岬が詰まると軽く促して話しやすいようにしてくれた。
「だが・・・本当に終わったと思っているのかい?」
ぽつりと彼はそう言った。
「だってねぇ、普通ここまでくれば終わらない方がおかしいでしょうが」
俺だったら付き合いません、そう岬は付け足す。
「んー・・・瀬古・・・俺はまだ終わってないと思うんだよ。と言うのもな、九条、あれから変わったよ。今年入ったばかりのお前は知らないだろうけどな。
あいつは人望はあるけど、結構それは創っていた部分が多いんだ。合理的なのが好きで、あいつの人望もその一貫だった。あいつ、ひとりで仕事している理由、知ってるか?」
「え・・・自分から率先して動くのが好きだからじゃないんですか?」
わざわざ聞くのだから何か理由があるのだろうが、岬には心当たりはなかった。そう思うと、今まで柚月の何を知っていたのだろうと思ってくる。
「違うよ。あいつは無駄を嫌っていた。下手に役員を使うより、自分で動かした方が早い・・・本気でそう思っていたんだ。
まぁ、俺らは客寄せパンダだな。独りじゃ独裁だから、不平不満を避けるために俺らがいたってこと・・・つまり、合理性の一環だ」
岬の知らない柚月だった。確かにそんな彼を見たことがないわけではないけれど、岬にとっての柚月は一人の男のことで一喜一憂したり、真剣に弟のことを思っていたりする柚月だった。
『生徒会長』である柚月も柚月なのだが、岬は今の柚月のほうが好きだった。
「でも・・・今年から変わったんだ。俺らもコキ使われるようになったよ。
お前とデートするために仕事を押し付けやがるんだ。
皆愚痴をたらしてるけど・・・それはそれで嬉しかったさ。やっと俺らも生徒会役員として認められた・・・ま、それはお前のおかげなんだよな」
照れくさそうに頭をかく能勢。だが、それで無関係であるはずの岬が生徒会室に入ることが許された理由が分かった。
「だから、俺らは全てお前の味方なんだよな。あいつが真面目に仕事できるなら、それに越したことはない」
『でも・・・』そう言いかける岬を無視して能勢は続ける。
「つまり、お前に諦められると困るんだよ」
そう言われて、励まされていることに気づく。
「だから、今すぐ行ってこい。多分まだ校舎にいるだろう」
「え、まだいるんですか・・・?」
「知らなかったのか?あいつ最近下校時刻ぎりぎりまでいるんだぜ?」
「その・・・ありがとうございます」
「礼はいいから、とっとと行きなさい」
ラーメンはおごるから・・・そう言われて、岬は頭を下げる。
「だーかーら!」
怒り出す前に岬は逃げ出した・・・。
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