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苦々しい顔をしていたが、反対していた本当の理由は、暁の想いから生まれるものだった。
ただ男同士が・・・という訳でなく、自分の人生と照らし合わせ、その上で、岬と柚月のことを心から考えての反対だった。
そんな彼に、岬も誠意を持って答えたかった。そして、自分達のことを認めてほしかった。
「おじさんの気持ち、本当に嬉しいです。確かに、俺たちが恋人でならなければならない理由はおじさんから見ればないのかもしれないし、本当は・・・俺にもまだ自分があの人のことをどう想っているのかの説明は出来ない。
でも・・・俺は先輩のそばにいたいし、何よりも、先輩には俺の側にいてほしいんです。
そのために、俺はあの人と付き合うことを選んだんです。ただの先輩と後輩でいたくなかったんです・・・そのためならどんな苦労だってする!だから俺たちのこと、認めてください!」
岬は土下座をした。どうしても誠意を見せたかった。そんな岬に暁は慌てて側に寄った。
「頭を上げてくれないか。君に頭を下げさせるわけにはいかないよ。
本当は・・・俺がお願いしなければならないんだ。
岬くん、柚月のこと、頼むよ。柚月は俺の若いころと似ている。気を抜けばいいのに、そうせずにまっすぐに進んでしまうところなんか特に・・・簡単に言えば真面目ではなく、馬鹿なんだな。
ずっと心配だった。鏡花には言わなかったし、言えなかったけれど、いずれこんな日が来るんではないか・・・そう思っていた。
だから俺も賛成はできなかった。息子と、そして、息子が本当に愛した人との幸せのため、俺と同じ轍を踏んでほしくはなかったが・・・君が相手なら大丈夫だろう」
潔く暁は頭を下げた。それは彼に認められた瞬間だった。
「とすると・・・親御さんに挨拶しないといけないな」
はぁ?いきなりの発言に岬は耳を疑った。切なげな中年の姿は消え去り、そこにはちょっとお茶目なジェントルマンがいた。
「不肖の息子をもらってくれる物好きがいるんだ。お礼をしなければならないのは当然だろう?善は急げと言うじゃないか」
い、嫌だーーー!と拒否する岬を引きずって、暁は先ほどまでいた部屋に向かう。そこでは柚月が警戒心を露わにしていた。
まぁ、それは当然のことだろう。先ほどまで自分たちのことを反対していた人なのだから。
「柚月、出るぞ」
「出るぞってどこに・・・」
「寝ぼけるな。岬くんの親御さんに挨拶だよ」
その言葉で柚月も自分達が認められたことに気づいた。
「父さん、ありがとうございます・・・」
「岬くんに感謝するんだな。この子でなければ、俺は何があっても反対していた」
「岬のことが、気に入りましたか?」
からかうように聞く柚月。
「気に入ったというか・・・お前にはもったいないな。俺があと数十年若ければ・・・まぁ、いい。柚月も来い。岬くんの親御さんに殴られに行くぞ」
「ははは、認めてもらえるのなら、何発でも」
「お、俺の意思は・・・?」
九条家の方々は開き直ると厄介だ・・・身をもってそれを知ることとなった・・・。
ふんふんふ〜ん♪と恐ろしいくらいに上機嫌で暁は黒いBMWを運転する。贈答用の花束もしっかりと用意してある。
冗談を言い合い、最初の方はそんな和やかな空気だったのだが、家の前に着くと、一瞬彼の顔の色がなくなったような気がした。指摘しようとするとそんな様子は消え、不思議そうに聞いてきた。
「誰かと・・・同居しているのかい?」
「同居って・・・俺の家なんですけど・・・まさか・・・ひょっとして・・・」
『岬』を苗字だと思っていた?そう聞くと『名前だったのか?』と聞き返された。もっとも、柚月も薫も『岬』と呼んでいたのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが・・・。
「瀬古・・・岬か・・・」
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