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岬のフルネームを口にしてから
突然黙り込む暁。不自然さに岬が首を傾げる。それを感じ取ったのか暁が『なんでもない』と言うのだが、彼の顔色は優れなかった。




「柚月よ、親御さんに数発殴られてくれないか?」



「父さんも殴られるんじゃないですか?」

暁の豹変振りを不審に思ったのは、岬だけではなかったようだ。

「いやぁ、最初はそう思ったんだけどな、考えてみたら二人の恋路に父親が関与するわけにはいかないだろう。親がいないと何もできないと思われるのもいけない。まずは二人が行って、そのあと俺が行くのが筋だろう」

二人に付け入る隙を与えず、一方的にしゃべる暁。呆然とした少年たちを残し、『じゃな』と車に乗ろうと来た道を戻ろうとした暁は、一気に凍りついた。





「・・・まさか・・・アキラ先輩・・・」





「名前、間違ったままだな、湊・・・」

二人の間になんともいえぬ空気が流れたことに岬気づかぬはずはなかった。そしてそれは柚月も同じだった。

「岬・・・まさかお前のおじさんと父さんは・・・」

「いや、そんな話、聞いたことが・・・」

と思いかけ、ふと思い出した。もし岬の推論が事実であるのなら、その空気に全て説明がつく。
しかし、それを暴いていいのかどうかという迷いもあったのだった・・・。






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かつて駆け落ちを約束した相手と数十年ぶりに会うことになるとは、暁に予想が出来るはずがなかった。
『彼』とは二度と会うことはできない・・・そう覚悟していたのだ。
だからこそ、彼を恨んだ。会えない男を憎むことで生きてきた。
それが、恋人同士の親として会うことになろうとは、運命の皮肉としか言いようがなかった。


「先輩・・・怒ってますか・・・?」

自分のことより、人のことを気にするところなど、親子そっくりだ。だから岬を見ると心が波立ったのだ、今なら納得できる。

「あぁ・・・怒ってるよ。俺独り置き去りにして、お前はずっと遠くに行ってしまった・・・今まで手紙も寄越さず、何をしていたんだ」

「手紙・・・書けるはずありませんよ。どうして先輩を捨てた俺に書く権利があるんですか・・・?」

「人の心をかき乱して勝手に逃げるのは、いくらなんでも俺に失礼だろう」

「そうですね・・・。俺が悪い・・・その位は承知しています」

だが、湊が無責任に暁と別れたとは思っていない。本当は暁を思いやってのことなのだろう。だが、決してそれを知らせず、自分ひとりが悪者になる・・・。
本当に馬鹿な男だ、湊は。暁にはそれ以上湊を傷つけるつもりはなかった。それに・・・今日のメインは自分達でなく、隣で戸惑っている、未来を担う少年たちなのだから・・・。


「まぁ、過ぎてしまったことは仕方ない。それよりも・・・」

暁に振られ、柚月は我に返ったようだ。湊に報告する決意をしたのだろう。瞳が鋭く輝いている。

「息子さんを下さい!」

突然の言葉に、さすがの湊も対応に困ったのだろう。とりあえずは中に上がることとなった・・・。





「つまり、アキラ先輩のご子息、柚月くんは岬を好きだから、交際を許してほしい・・・そういうことなんだな、岬?」

「正確には、俺も先輩が好きだから・・・というのがつくんだけど」

とりあえず状況の理解できない湊に根掘り葉掘り正確には当たり障りのない範囲ではあるが白状した。

「で、俺にお付き合いを認めろと言うことか・・・」

「あなた、何悩んでるの・・・って、これはこれは・・・」

嬉しそうに母親が美形親子のもとにかけよる。彼女頼子はかなりの美形好きで、湊と結婚したのも顔が・・・という噂が本当に立ったほど美形には目がない。

「まるで『息子さんを僕に下さい』というために来たみたいねぇ・・・」

おほほ・・・と冗談半分に笑ってくれたのはいいが、それは冗談ではなかったため、九条親子は冷や汗を流しながら固まった。そして、その様子で頼子も悟ってしまったらしい。驚きに目を見開く。

「うそ?本当なの?やだあなた、孫の顔が見られないわねぇ」

無邪気にぐさーっと九条親子の心を突き刺す。岬と湊はそういう頼子になれているため、大して驚きもしなかったが・・・。

「と、いう訳なので、岬のことは諦めていただけると双方ともにベターだと思うんですが・・・」

困ったようにお願いする湊だったが、頼子が横槍を入れてきた。

「あらやだ、私はあなたに一任すると決めてるのよ。勝手に私のせいにしないで頂戴」

自分の責任になるのが嫌なのか、それとも他意があるのかは知らないが、頼子は決断をしなかった。
だが、この分だと頼子に反対の様子は見られず、問題は湊をどう説得するかだった。過去の痛みを抱えていた人間には、生半可な言葉では通じない。


「そう・・・。それなら俺が好きにしていいということだね。
正直、俺は迷ってるんだよ。男同士で付き合うことが、本当にいいのかどうか・・・。
確かに俺たちが付き合っていたときに比べればま
になったのかもしれないが、それでも風当たりは強いだろう?そんな中どうやって生きていくのかい?本当に・・・君たちが付き合わなければならない理由がどこにあるのだろうか・・・先輩も同じ考えだと思う」



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