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腕を組みながら岬、柚月、暁の三者を交互に見る湊。時にはうなり声を上げ、時には沈黙をする。
とりあえず状況の理解できていないようなので、根掘り葉掘り正確には当たり障りのない範囲ではあるが白状した。


「つまり、アキラ先輩のご子息、柚月くんは岬を好きだから、交際を許してほしい・・・そういうことなんだな、岬?」

念を押すようにして聞く。

「正確には、俺も先輩が好きだから・・・というのがつくんだけど」

「で、俺にお付き合いを認めろと言うことか・・・」

「あなた、何悩んでるの・・・って、これはこれは・・・」

悩ましげに沈黙する湊。重い空気が漂い始めた頃、嬉しそうに母親が美形親子のもとにかけよる。
彼女頼子はかなりの美形好きで、湊と結婚したのも顔が・・・という噂が本当に立ったほど美形には目がない。


「まるで『息子さんを僕に下さい』というために来たみたいねぇ・・・」

場の空気を和らげるためか、おほほ・・・と冗談半分に笑ってくれたのはいいが・・・それは冗談ではなかったため、九条親子は冷や汗を流しながら固まった。
そして、その様子で頼子も悟ってしまったらしい。驚きに目を見開く。




「うそ?本当なの?やだあなた、孫の顔が見られないわねぇ」



無邪気にぐさーっと九条親子の心を突き刺す。岬と湊はそういう頼子にれているため、大して驚きもしなかったが・・・。

「と、いう訳なので、岬のことは諦めていただけると双方ともにベターだと思うんですが・・・」

困ったようにお願いする湊だったが、頼子が横槍を入れてきた。

「あらやだ、私はあなたに一任すると決めてるのよ。勝手に私のせいにしないで頂戴」

自分の責任になるのが嫌なのか、それとも他意があるのかは知らないが、頼子は決断をしなかった。
だが、この分だと頼子に反対の様子は見られず、問題は湊をどう説得するかだった。過去の痛みを抱えていた人間には、生半可な言葉では通じない。


「そう・・・。それなら俺が好きにしていいということだね。正直、俺は迷ってるんだよ。俺が言うのもなんだけど、男同士で付き合うことが、本当にいいのかどうか・・・。
確かに俺たちが付き合っていたときに比べればましになったのかもしれないが、それでも風当たりは強いだろう?そんな中どうやって生きていくのかい?
本当に・・・君たちが付き合わなければならない理由がどこにあるのだろうか・・・
どこをどうしてそこの先輩が認めたのかは知らないけど、本当は先輩も同じ考えだと思う」


それは・・・岬に答えることはできなかった。湊の言っていることが正しいからだ。感情では柚月が必要だとわかっている。
しかし、湊を説得するにはどうしたらいいか・・・それは解らなかった。あまりにも恵まれた環境にあったからだ。


「岬は答えなくていいよ。俺は岬の味方だから、お前が男を好きになることに反対するつもりはない。だが、柚月くんの気持ちがわからない以上、俺は賛成することはできないんだよ。息子を委ねるんだ。わかるよね」

「はい。最初は・・・一目ぼれでした。本人無自覚ですけど、岬って結構目立ちますからね。
でも・・・それで人を好きになるとは限らない。実は好きになった理由なんか、分からないんですよ。
でも思い当たるとすれば・・・岬は俺を恐れなかった。ずけずけと俺に意見を言った。
そんな奴、俺の周りにはいなかったんです。みんな顔色を伺うから。
真雪のことで、俺たちは話すようになった。そうしたら・・・気がつけば岬なしには生きられなくなってしまったんです。何度もあきらめようかと思いました。それでも・・・無理だったんです」


「黙っているのも愛情だったのではないかい?」

「そうですね。だからこれは俺の身勝手だ。好きだからって岬を巻き込んだ。でも、そのおかげでこうやって一緒にいることができる・・・」

照れくさそうに告白する柚月を、優しげな瞳で湊は見つめていた。

「これ以上、悲しみの連鎖は起こしてはいけないか。柚月くん、君に岬を任せるよ。というか・・・岬のほうがお願いされる立場なんだよな、そういえば。つまり、菓子折りの一つや二つ・・・」

楽しそうに九条親子をからかう湊を見て、岬はため息をつく。認めてくれたのは嬉しいが、もう少し素直に認めればいいのに・・・。だが、しんみりとしたくないのだろう。彼らの関係を知ってしまった以上、湊のしたいようにさせたかった。

「大丈夫だ。そんなこともあろうかと、菓子折りの一つや二つ・・・さすがに岬の父親がお前だとは思わなかったが」

それはこっちのせりふ。息子の恋人が男な上に、その父親が元彼氏だなんて。まぁ、別にいいか。それより先輩、久々に飲みにいきますか・・・」

「あぁ、そうだな。たまには一晩中飲むのも悪くはないな」

妙に気が合ってしまい、二人とも飲みに行ってしまった。『たまには』ということはそれだけ昔から飲んでいたのだろうか・・・そんな疑問は心の底に閉じ込めておいた・・・。



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